MITHRAISM MITHRAIC THEOLOGY ミトラ神学 神話学 堕天使伝承と黙示録神話の比較研究 By 東條真人，Ｐｈ．Ｄ． MIHRIJJA CHURCH OF THE SEVEN ARCHANGELS ミトラ教天使七星教会
表紙　孔雀王アザゼル 改版履歴 講義　２００３年３月８日（土） ＨＰ初版　２００３年４月１７日（木） 二訂　２００７年１月１０日（水）　新装、加筆校正		⇐ミトレーアム公式ＨＰへ

　

　

　

堕天使伝承と黙示録神話の比較研究

――天上の叛乱、見張りの堕天、そして世の終わりについての比較研究――

目次

はじめに

本文

１．ミトラ教

２．サービア星教

３．ユダヤ教

４．キリスト教

５．イスラーム

６．ゾロアスター教（マズダー教）

　

　

はじめに

ねらい

　一方には、「絶対悪」「悪には立ち直るチャンスはない」という考え方がある。もう一方には、「時がくれば赦〔ゆる〕される」「罪を犯しても、十分に悔いるなら真っ白にもどれる」という考え方がある。本論文は、ミトラ教、サービア星教、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、ゾロアスター教（マズダー教）それぞれの堕天使＊伝承と黙示録＊伝承に関する基礎資料を提供し、読者が客観的に比較できるようにすることをねらいとしている。これらの宗教に関する正確な知識を持つことで、読者は、ミトラ教が掲げる「アザゼル復活宣言」がどのような位置にあるかを正しく把握することが可能になる。

　以下に、この資料を読んで考えていただきたい点を二つ挙げておく。

（１）堕天使　だてんし

　堕天使＊とは、天界から追放された天使という意味である。悪魔とも言う。堕天使伝説には、「天上の叛乱」と「見張りの堕天」の二つがあり、ミトラ教、サービア星教、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、ゾロアスター教（マズダー教）の間に広まっている。みなさんに確認していただきたいのは、次の点である。

�@堕天使が赦されているという伝承が、どの程度広まっているのか。どの宗教が堕天使を赦〔ゆる〕しているのか？

�Aそもそも、サタン／ルシファー／アザゼルは、悪なのか？

�B見張りは、どう裁かれたのか？

�Cこれらの宗教が語る「悪」とは何なのか？

＊堕天使　〔英〕fallen angel。

（２）黙示録　もくしろく

　黙示録＊は、世の終わりについて記した教典をさす。黙示録伝承とは、黙示録に記されている伝承をさす。経典によって異なるが、世の乱れ、天変地異、救世主登場、千年王国、最終戦争、復活、大審判、大火、新しい天地などについての伝承が記されている。みなさんに確認していただきたいのは、次の点である。

�@最終戦争における悪の総大将は誰か？

�A最終戦争は、何を目的としているのか？

　

＊黙示録　〔英〕アポカリプスapocalypse。

　

参考

ミトラ教

・東條真人『ケウル−ミトラ聖典』MIIBOAT Books、2006

・ＰＤＦ．正典『真二宗経』ビジュアル版、ミトラ教天使七星教会

・ＰＤＦ．正典『大力士経』新版、ミトラ教天使七星教会

ユダヤ黙示経典

・日本聖書学研究所編「ヨベル書」『聖書外典偽典４旧約偽典�U』教文館、1990(初1975)

・日本聖書学研究所編「エチオピア語エノク書」『聖書外典偽典４旧約偽典�U』教文館、1990(初1975)

・日本聖書学研究所編「スラブ語エノク書」『聖書外典偽典３旧約偽典�T』教文館、1989(初1975)

コーラン・イスラーム伝承

・Османов, М.-Н. О. пере.и ком. Коран, 《Ладмир》, Москва, 1995；オスマノフ，M.-N. O. 訳注『コーラン』《ラドミール》社、モスクワ、1995

・井筒俊彦『コーラン』全三巻、中公文庫、1986(1957), 1985(1958), 1986(1958)

・井筒俊彦『井筒俊彦著作集７コーラン』全三巻、中公文庫、1992

辞書

・東條真人『ミトラ神学研究辞典』ＣＤ版、ミトラ教天使七星教会、2007(初2003)

・Esposito, John L. ed. In chief, The Oxford Encyclopedia of the Modern Islamic World, 4 vols, Oxford University Press, 1995；エスポジト，ジョンＬ．編『現代イスラーム世界オックスフォード百科辞典』全四巻、オックスフォード大学出版局、1994

本文

１．ミトラ教

名称

〔ア／ク／英〕ミフリーヤMihrijja/Mihriyya。〔羅〕Mysteria Mithrae。〔中〕明教Ming-jiao、弥勒教Mi-le-jiao。

ミトラ神話に登場する堕天使

　ミトラ神話には、三名の堕天使が登場する。七大天使のうち、じつに三名が堕天の経験を持つ。この三名は闇系列の天使と呼ばれている。

�@アザゼル。孔雀王（メレクタウス）という尊称を持つ。古名をアーリマン／アリヤマンと言う。

�Aシェムナーイル。いわゆる見張りの長である。

�Bアズラーイル。古名をアズという。アーリマンの妻であった。

経典

�@アザゼル関連

　『黒の書』『孔雀の書』『啓示の書』『太陽の書』『七大天使の書』『聖七文字の書』（以上『ケウル−ミトラ聖典』に収録）

�Aアーリマン関連

『西方ダウル記１』『西方ダウル記２』『ダウル記１』『ダウル記２』『綺羅の霊に讃えあれ』『真珠の詩』『秘密の書』『ティベリアス湖伝説』（以上『ケウル−ミトラ聖典＊』に収録）

『ケファライア』

�Bシェムナーイル関連

　『真二宗経』『大力士経』

�Cアーリマンとアズ関連

　『真二宗経』『ズルワーン派版創造の書』

＊ケウル−ミトラ聖典　東條真人著、MIIBOAT Books、2006

伝承

　以下は、正典『真二宗経』『大力士経』による。

�@天上の叛乱

　神ミトラが泥でできた原人オフルミズド（ディオニューソス）を聖王に任命したとき、アーリマンはこれを拒否したので、天界から追放された。アーリマンは軍団を率いて天界に侵入し、原人オフルミズド（聖王ディオニューソス）を殺した。しばらくの間、アーリマンは神と対立したが、アーリマンの行動は、すべて神ミトラへの愛から発した行為であることが分かり、第一の天使に復帰し、名前をアザゼルに変えた。

�A見張りの堕天

　シェムナーイルを長とする200名の見張りと呼ばれる天使たちは地上に降りて、人類を導く仕事についた。しかし、見張りたちは、人間の娘と交わり、巨人族を生んでしまった。巨人族は、たちまち村の食物を食べ尽くし、人間まで食べ始めた。そこで、神（ミトラ）はエノクを使者として遣わし、巨人族に警告を与えた。巨人族のうち、再三の警告を受け入れた者たちは、ミトラが中央アジアに築いた36の壮麗な都市に移り住んだ。残った者たちは、徹底抗戦を唱えた。ミトラは、ダルダーイルを人間に変身させて都市に潜入させ、人間たちを集め武装蜂起の準備をさせた。準備が整うと、ミトラはイスラーフィールの一隊を派遣し、巨人族を征伐させた。ミトラは、巨人族の血でけがれた大地を洗い清めることにし、イスラーフィールをノアのもとに遣わして、箱舟を作らせ避難させた。すべてが終わった後、見張りの裁きがおこなわれた。アザゼルのとりなしで、シェムナーイルらは許された。見張りの責任者だったシェムナーイルは、アザゼルのもとに預けられ、他の天使がいやがる仕事（神の敵を暗殺する仕事）をするようになった。

�B孔雀の旗

　バスラのハサン、ハッラージュ、そしてクルディスタンのアディーとヤーデガールに啓示が下されたとき、新しい周期が始まった。新しい「友道」の始まりを象徴するために、アザゼルが啓示の天使に選ばれた。

世の終わり

　以下は、『真二宗経』と『九蓮宝巻』による。

�@世の中が乱れる

　人々の欲望が途方もなく大きくなり、救済は困難になる。その結果、世の中は大いに乱れ、不法、頽廃、病気、犯罪、暴力が激増する。

�A友たちは避難する

　ミトラが現れ、友たちを「聖なる都＊」に避難させる。彼らは、苦海からのがれて、これから起きることを待つ。

�B救う者がいなくなる

　菩薩も仙人もほとんどがこの世から引き上げてしまう。そのため、欲望と執着により無明の中をさまよっている人々を救う者はいなくなる。

�C天変地異が起きる

　天が下した水、火、風の三災が一度に下界をおそう。すると、一瞬にして、無数の大地が傾く。

�Dミトラは友たちを脱出させる

　ミトラは、友たちを真気でつつみ、彼らをそれぞれが坐るべき九枚の花弁をもつ白蓮華に結びつける。すると、突然、目の前から三災八難と苦難が消える。目の前に無影山が現れ、皇極の内に住む無極聖母がやってきて、金丹を与えてくれる。友たちは金丹を飲んで、西天浄土にあるミトラの宮殿の内裏に入る。

�E最終戦争が起きる

　天使軍対大怨霊の大決戦が起きる。大怨霊は、アザゼル（アーリマン）ではない。大怨霊は、時の終わりまでに回収しきれなかった七大天使の影の集合体である。はげしい戦いの末、大怨霊は調伏される。

�F新しい周期がはじまる

　古い世界は解消され、新しい世界が作られる。

＊聖なる都　中国語では「香斎」〔こうさい〕Xiang-zhaiと言い、お香の煙がつくる結界に斎〔まも〕られた都を意味している。エメラルドの都（碧都）とも言う。シリア語の教典には、「天のエルサレム」と書いてある。⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「九蓮宝巻」

伝承の特徴

　ミトラ神話は、ユダヤ教の小創世記（『ヨベル記』）とエノク書の伝承を継承している。弥勒教は、やや中国化しているが、基本部分は変えていない⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「九蓮宝巻」；『ヨベル記』の項参照

　

聖画　バビロンのアザゼル

　

２．サービア星教

名称

〔ア〕アッサービアas-Sabi'a。〔英〕Sabianism。

サービア星教の神話に登場する堕天使

�@サマエル　⇒詳細は後述「参考４．神々の伝説」

�Aアジゾズ　⇒詳細は後述「参考４．神々の伝説」

経典

�@サービア星教の文書

『ハランの高等司祭が記した書』Kitab al-Baba al-Harraniyyah

『五つの秘儀』Khamsa Sirr

『ナバテ派の農業』Al-fillahatu an-nibtiyyun

『ヘルメス文書』

碑文

�Aサービア星教に関する外部著作

シリア人テル・マフレのディオニュシウスDionysius of Tell-Mahre, 840? A. D.によるシリア語著作『ディオニュシウスの書』

中世イスラームの学者たち（ビールーニー、シャフラスターニー、アンナディームら）の著作

伝承

ミトラ教と同じ。

世の終わり

　サービア星教の終末論は、西方ミトラ教の終末論とほぼ同じである。周期の終わりには、大火が生じ、世界を焼き尽くす。その直前にアザゼルらが現れ、神の友たちを連れて天に昇る。残された者たちは、世界とともに燃え尽きる。神と七惑星神たちは、新たな世界をつくる。

　

参考１．起源

　サービア星教の七惑星神崇拝は、バビロニア・アラビア半島・ヨルダン・レバノン・シリアに広まる古いセム系の宗教的伝統であり、その起源は四大文明の一つメソポタミア文明にまでさかのぼる。バビロニア（カルデア）がアケメネス朝ペルシアに征服されたとき、カルデアン・マギの手でサービア星教の宗教的伝統と神学は、ミトラ教の中に移された。サービア星教の中で、現在比較的資料が豊富なのは、シリア内陸部の通商都市パルミュラとハラン、および古代バビロニア（カルデア）の神話・教義・信仰形態である。

参考２．基本教義

（１）天真−七曜神−人間

サービア星教によれば、バアル・シャミン＊、すなわち天真ミトラ＊と人間の間に七惑星神がいる。

（２）至高三神

七惑星神のうち、キルキス（土星）、アリユース（太陽）、シン（月）が至高三神を形成している。地域差があり、シン（月）、シャマシュ（太陽）、イシュタル（金星）の場合もある。いずれにせよ、天真は、至高三神を通して現れる。

（３）筆頭化身

初期においては三神の中でシンが筆頭化身であったが、後にアリユース（シャマシュ）が筆頭化身になった。

参考３．ミトラ教との関係

（１）七惑星神の名前

アラム語・シリア語を基本としているが、ヘレニズムの影響を受けており、土星神名キルキス＊や太陽神名アリユース＊のように、ギリシア語に由来する名称もある。土星神と太陽神の名前のみギリシア語化したのは、偶然ではなく、ミトラ教の影響である。

（２）ミトラの秘儀との関係

土星・木星・火星・太陽・金星・水星・月というカルデア式惑星配列において、至高三神に相当する土星・太陽・月を先頭にまとめると、土星・太陽・月・木星・火星・金星・水星となり、西方ミトラ教における秘儀の位階と同じ配列になる。北斗七星についても、記録が残っており、《北斗の秘儀》と呼ばれるものが存在した。この秘儀は、西方ミトラ教における「聖牛の供儀」と同じ儀式であったことが確認されている。

表　サービア星教の七曜神

七惑星	神名	神名のアラム語・シリア語表記	別名
土星	老賢者	キルキスQirqis	アヌ、アン、バアル･シャミン（天主）
太陽	神の王	マラクベルMalakbel	シャマシュ、アリユース、アザゼル、ヘリオガバルス、天と地の主、上界と下界の主、偉大な主
月	白き主	アグリボルAglibol	シン、智慧の主
木星	恵みの主	ベールBel	バイル、ワカール、マルドゥク、荘厳の主
火星	盲目の主	ラッバルアアマーal-Rabb al-'a'ma	シャミール、ネルガル
金星	貴婦人	ベルティスBeltis	アスタルテ、アタルガティス、ベリト、バルティ、イシュタル、輝ける女神、淑女
水星	全能者	アジゾスAzizos	ナービク、ネボ、ナブ

＊バアル・シャミン　〔アラム語〕Baal Shamin。アラム語で「天主」。永遠の主Mare'almaとも言う。西セム神話の主神。時の主ズルワーン〔ア〕Rabb al-sa'atであると同時に、天真ミトラでもある（ギュンドゥズ『命の霊知』オクスフォード大学出版局、1994、p140-141）。

＊天真ミトラ　〔シリア語〕ルーハ・ハッヤーruha d-hayya。シリア語で「生ける霊」の意で、ミトラを意味する尊称である。正典『真二宗経』『ケファライア』『天真弥勒大讃願経』にも使われている。ミトラは「永遠に生き」hayy、しかも「全能」qadirであるとされ、偉大な主al-rab al-'azimにして、育みの主al-rabb al-khayrである。

＊キルキス　〔アラム語・シリア語〕Qirqis。ギリシア語クロノスが音訛した名前。

＊アリユース　〔アラム語・シリア語〕Aliyus。ギリシア語ヘーリオスが音訛した名前。

参考４．神々の伝承

アザゼル

　アザゼルは、太陽と結び付いており、シャマシュ（アリユース）と一体化している。ローマ帝国時代には、太陽神ヘリオガバルスと呼ばれていた。アザゼルには、マラクベルという別名がある。マラクベルMalakbelは、マレク・ベールMalek Bel→メレク・ベールMelek Belであり、アラム語・シリア語で「神の王」を意味する。

シャミール

　火星神シャマールShamilは、怒るとみさかいがなくなって、あらゆるものを破壊するため、「盲目の神」と呼ばれている。シャミールは、ヘブライ語のサマエルSamaelに相当する。サマエルには、二種類の伝承がある。

�@サマエルは死の天使である。この伝承によれば、サマエルはミトラ教・イスラームの死の天使アズラーイル、古代バビロニアのネルガル、ギリシアのプルートーである。シャミール／アズラーイルは、死の天使でもあるが、健康と繁栄を授けてくれる太陽のごとき吉神でもある（アン-ナディーム『学術書目録』）。

�Aサマエルは、サタン族の長である。この伝承によれば、サマエルはルシファーである。

アジゾズ

　アジゾスAzizosは、シェムナーイルの原形であり、水星および金星に結び付けられている。アジゾスは、見張りと呼ばれる200名の天使たちの長シェミハザである。

ナブ

水星神ナブは、ヘルメス、アガトダイモーン、オルフェウス、ワリスと同一視されており、偉大な賢者とされている。

　　

３．ユダヤ教

名称

〔ア〕ヤフーディーヤYahudiyya。〔英〕ユダイズムJudaism。

ユダヤ神話に登場する堕天使

�@サタナエル

ユダヤ教のサタナエルには、堕天神話がない。

�A見張り

シェミハザに率いられた200名の天使たち。

経典

�@サタナエル関連

　『ヨブ記』『イザヤ書』『エゼキエル書』

�A見張り関連

　『創世記』『ヨベル記』『エチオピア語エノク書』『スラブ語エノク書』

伝説

�@サタナエル伝承

　『ヨブ記』に堕天する以前のサタナエルについての伝承がある。さらに、『ヨブ記』『ヨベル記』から、サタナエルを「悪」とみなしていないことが分かる。サタナエルという名前は、ヘブライ語で「敵対者」を意味する言葉ハ-サタンha-satan＊に由来するが、この言葉は、悪として神に敵対するという意味ではなく、人間に試練を与えて試す者を意味している。

＊ハ-サタン　〔ヘ〕ha-satan。英語に訳すと、ザ・サタンthe satan。サタンが小文字なのに注意。これを意識して日本語に訳すと、「試練を与える役目を引き受けたサタン族の一天使」になる。

�A見張りの堕天

　『創世記』6-8『ヨベル記』『エチオピア語エノク書』『スラブ語エノク書』に記されている。『ヨベル記』10:7-14は、堕天使の十分の一は特別に許され、サタナエルのもとに引き取られ、神が課した特別の仕事をすることになったと記している。この伝承は、ミトラ教の伝承「堕天使の復帰伝説」につながっている⇒『ヨベル記』の項参照。『エチオピア語エノク書』は見張りの長をシェムハザとしているだけで、『ヨベル記』も『スラブ語エノク書』も誰が長なのかについての記述はない。

世の終わり

　正統的ユダヤ教には、世の終わりに天使軍対悪魔軍の大決戦が起きるという考えはない。サタナエルは、神の指示で人間に試練を与えているだけなので、たとえ世の終わりに大審判が行われたとしても、罪を問われることはない。神の傍らにいて、静かに誇らしげに裁きを見守っている。

参考１．ユダヤ教の黙示録

　ユダヤ教の黙示録は、『ダニエル書』『イザヤ書』『詩篇』である。この中には、以下のことが説かれている。末尾の数字は『ダニエル書』の章句番号である。

�@いつかメシア（救世主）が現れる。7:13-14

�Aメシアは、イスラエル国家の主権と裁きの権限を持つ。7:13-14

�Bメシアは、罪人とこの世を惑わせた者を滅ぼす。7:9-12

�Cメシアの王国は永遠に続く。7:14

ユダヤ人の哲学者マイモニデスMaimonides (Rabbi Moshe ben Maimon), 1135-1204は、『バビロニア・タルムード注釈書』に下記のように注釈を加えている。現在、この注釈はユダヤ教の正統的解釈になっている。

・メシアはイスラエルの来るべき王であり、その偉大さは、ダビデ王、ソロモン王に優る。

・メシアが現れると、イスラエル国が再建され、独立する。イスラエル国は、他の国々と平等の権利を持ち、自衛できるだけの力を備える。

・すべてのユダヤ人がイスラエルの地に帰ってくる。生き易くなるが、貧富の差は残る。

・すべてのユダヤ人が律法にしたがって生きるようになる。

・賢者が増え、善と義による統治がなされる。

・エルサレムに聖なる寺院が再建される。

・戦争、憎悪、飢饉がなくなり、地には平和が訪れる（イスラエル国は、他の国々と平和的な関係を築き、共存共栄する）。

参考２．ヨベル記

名称

〔英〕Jubilees。

別名

　小創世記。

書誌

　前二世紀後半150-100 B. C.にヘブライ語で記された。記したのはユダヤ教の律法学者団である。モーゼがシナイ山で神から律法を刻んだ石版を受け取った際に、天使がモーゼに語り聞かせた天地創造以来の歴史が記されている。この書は、世界史を49ヨベルに分けて、歴史を書き記している。１ヨベルは49年（＝7×7週年）で、神聖数七と七曜周期の強い影響を受けている。

形式

　モーゼがシナイ山に登っていた四〇日間の間に啓示された内容が記されている⇒『創世記』24:18。第一章では、神がモーゼに直接語りかけるが、残りの章はすべて、七大天使の一人がモーゼに語りかける形式になっている。

内容

　神は、モーゼをシナイ山に呼んで、律法と掟を記した二枚の石版を授ける。この時、神は七大天使の一人に命じて、世界の歴史を天地創造からその時点までを、49ヨベルに分けて説明させる。世界歴史の内容は、『創世記』第一章から『出エジプト記』第十二章までの主な出来事――天地創造、七大天使の誕生、アダムの物語、見張り・巨人族・ノアの物語、アブラハムの物語、ヤコブとその一族の物語、モーゼの物語――であり、民話および著者が属するエッセネ派的律法厳守の立場からの解釈をおりまぜて記されている。

重要ポイント

�@七大天使誕生　神は、天地創造の第一日目に七大天使を創造した。神は、いつか人々の間に降りて、人々とともに住むと宣言する。2:1-3

�Aアダムの転落　サタナエルは、エデンの園にいるアダムとイヴを誘惑し、りんごを食べさせた。このため、神は二人をエデンの園から追放した。神はサタナエルにも怒り、呪いをかけた。以上は、第1ヨベル期のできごとである。はっきりと記されていないが、この後サタナエルは許され、見張りの一人に任命されている。2-3

�B見張りと巨人族　第25ヨベル期に、見張りたちが地上に降り、人間の娘と交わって巨人族を生んだ。巨人族が狼藉をはたらいたので、神は剣を持つ大天使を使わして征伐させ、その遺骸と血を洪水で洗い清めた。神は多くの者を罰したが、サタナエルのとりなしで、堕天使の十分の一だけは特別に許し、サタナエルのもとで特別の仕事をすることを命じた。大洪水でも巨人族は全滅せず、生き残りは、悪霊となって人類にとりついている。10:7-14

ミトラ教との関係

　今述べた�@から�Bは、ミトラ教の神話とほぼ完全に重なっている。『ユベル記』『エノク書』の成立と西方ミトラ教の成立年代も一致する。さらに、ミトラのマギはカルデアの司祭とユダヤのラビの混成団であると言う当時の記録や、両司祭団による合同礼拝のようすを描いた壁画など、いろいろと符合する事実が存在している。

　

　

４．キリスト教

名称

〔ア〕マシーヒーヤMasihiyya。〔英〕クリスチャニティーChristianity。

キリスト教神話に登場する堕天使

�@サタナエル

堕天後はサタンと呼ばれるようになった。別名をルシファーという。

�A見張り

シェミハザに率いられた200名の天使たち。

経典

�@サタナエル関連

　『ヨブ記』『イザヤ書』『エゼキエル書』

�A見張り関連

　『創世記』『ヨベル記』『エチオピア語エノク書』『スラブ語エノク書』

伝説

堕天前のサタナエル

ルシファー（サタナエル）はサタン族の長である。新約聖書によれば、人間を誘惑し、神に反逆させる者である。神にとって代わろうという大それた野心をいだき、天界で叛乱を起こした反逆者である。この叛乱ゆえに、天界から追放された。しかし、サタンはあきらめず、悪魔の軍団をつくって神に敵対し、さまざまな悪事を働いている。アダムの誘惑も、神に対する報復である。

サタナエルの名前がサタンになった理由

　この理由について述べている経典・伝承は、中世東欧のボゴミール派（ミトラ教の一派）の経典・伝承だけであり、キリスト教の経典・伝承の中にはない。これについては、『ケウル−ミトラ聖典』の「秘密の書」と「ティベリアス湖伝説」を参照していただきたい。全文が訳出されている。

サタナエルの堕天

　この伝説の出所は、『イザヤ書』14:12-17と『エゼキエル書』28:12-17である。以下に全文を引用しておく。サタンが全天使の中で最も美しいという根拠もここにある。

�@『イザヤ書』14:12-17　「ああ前は天から落ちた。明けの明星、暁の子よ。お前は地に投げ落とされた。もろもろの国を倒した者よ。かつてお前は心に思った。わたしは天に上り、王座を神の星よりも高く据え、神々の集う北の果ての山に座し、雲の頂に登って、いと高き者のようになろう。しかし、お前は冥府に落とされた。墓穴の底に。」

�A『エゼキエル書』28:12-17　「おまえは知恵に満ち、美しさの極みである。おまえは神の園であるエデンにいた。あらゆる宝石がお前をつつんでいた。それらはおまえが創造された日に整えられた。わたしは翼を広げて覆うケルブとしておまえを造った。・・・中略・・・おまえの心は自分の美しさのために高慢となり、栄華のゆえに知恵を堕落させた。」

補注

　キリスト教におけるサタン観は、『ヨハネの黙示録』とミルトンJohn Milton, 1608-1674の『失楽園』の強い影響を受けている。

見張りの堕天

　ユダヤ教と同じ。

世の終わり

　キリスト教の黙示録は、『ヨハネによる黙示録』である。この他に、『ラテン語エズラ書』『第四エズラ書』『エチオピア語エノク書』『ギリシア語バルク黙示録』『シリア語バルク黙示録』がある。

�@終わりの始まり

　世の終わりが近づくと、天に大きなしるしが現れる。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっている。女はみごもっており、子どもが生まれたら一呑みにしようと竜がねらっている。そこで、子は神の玉座にひきあげられた。⇒『ヨハネの黙示録』12:1-6

�Aミカエルとサタンの戦い

　天で戦いが起こる。ミカエルとその軍団が竜に戦いをいどむ。竜とその軍団も戦ったが負けてしまう。竜は火のように赤く大きい。七つの頭と十本の角、七つの尾をもつ。この竜、年を経た蛇、悪魔、サタンと呼ばれるものは、地上に投げ落とされた。⇒『ヨハネの黙示録』12:3, 7-9

�B二匹の獣

　竜は女の子孫の残りすべてを滅ぼすために、二匹の獣を生んだ。一匹目は豹に似ていて、十本の角と七つの頭をもつ。二匹目は子羊の角に似た二本の角をもち、666という数字をもつ。この獣こそ、反キリストで、人々の右手か額に印をつけて、先の獣を拝ませる。ハルマゲドンと呼ばれる地に邪悪な王たちを集める。⇒『ヨハネの黙示録』13; 16

�C大淫婦

　赤い獣にまたがっている大淫婦が滅ぼされる。女は紫と赤の衣を着て、金と宝石と神咒で飾り立てている。この女は地上を支配しているあの大きな都のことである。⇒『ヨハネの黙示録』17

�D最終戦争

　サタンは最終戦争でとらえられ、牢につながれる。しかし、千年が過ぎると許され、解放される。するとサタンは、ゴグとマゴグを呼び寄せ、再び軍勢を集めて攻め上り、善良な人々がたてこもる「聖なる都」を包囲する。あわやというとき、天から火が下ってきて彼らを焼き尽くす。サタンは火と硫黄の池に投げ込まれ、永遠に責められる。そのわきで新しい天と地がつくられる。⇒『ヨハネの黙示録』20:7-10; 21

　

参考１．天使論

　中世キリスト教の天使論に大きな影響を与えたのは、偽ディオニュシウス＊の『天上位階論』が説く「上中下各三隊からなる全九階級の天使団」という考え方である。しかし、これ以外にも諸説あり、相互に矛盾するものもある。⇒『ミトラ神学研究辞典』の「十二星座天使団」の項

参考２．神学

　初期キリスト教には、クレメンスClemens, 150-210?やオリゲネスOrigen, 185-251のようにサタンも赦されると考える者もいた。しかし、アウグスティヌスAugustine, 354-430、教皇大グレゴリウスGregory the Great, 教皇位590-604、アンセルムスAnselm, 1033-1109らが説く教説「堕天使たちはけっして救われないし、赦されないとする説」が支配的になり、以後これがカトリック・プロテスタントの主要な見解になった。この見解を要約すると、次のようになる。

　アダムとイヴが楽園から追放され（原罪）たときから、人類はサタンの支配下に入った。しかし、イエスの殉教により、人類はサタンの支配から抜け出す道を見つけた。ただし、イエスの殉教は、人類救済だけが目的なので、堕天使たちが救われることはない。神は、人間を成長させるために今も堕天使たちを利用しているが、堕天使たちにはまったく希望がない。

参考３．天使に対する見解

　キリスト教会は、イエスの福音（新約聖書）を基礎とし、イエス亡き後、神と人の間をとりもつのは、教会の特権的仕事であり、教会の地位は天使に優ると教義化しているので、神と人の間にイエスと教会以外の者、つまり天使が介在することを認めない⇒東京神学大学新約聖書神学事典編集委員会編『新約聖書神学事典』「天使」の項。

　

５．イスラーム

名称

〔ア／英〕イスラームIslam。

イスラーム神話に登場する堕天使

�@アザゼル

堕天後はイブリースIbrisと呼ばれるようになった。イブリースは、シャイターン族shaytanの長を意味する。

�A見張り

　『コーラン』に見張り伝承についての直接的な言及はない。

伝説

アザゼルの堕天

　『コーラン』38:71-85/84によれば、ある日、神は泥をこねてアダムをつくり、アダムを聖王にしようとした。このとき、アザゼルは「純粋な火でできている自分は、泥人形を兄弟と認めることはできない」といった。そこで、神はアザゼルを追放した。この神話は、アーリマンによる原人オフルミズド殺しの神話をもとにしている。

世の終わり

　イスラームの黙示録は、『コーラン』とハディースと呼ばれる伝承集成である。以下にシーア派の標準的な伝承を記す。

�@悪がはびこる

　世の終わりが近づくと、誰も『コーラン』を読まなくなり、欲望のままに生きるようになる。犯罪の激増と天変地異で、世の中は荒廃する。

�A神は大欲霊をつくる

　神は、世の中のすべての欲を集めて、大欲霊ダッジャールDajjalをつくる。ダッジャールは、巨大なロバに乗って現れ、世界を征服し、四〇日間支配する。ダッジャールは、キリスト教の反キリストに相当する。

�Bマフディーが現れる

　白馬に乗って、マフディーが下生し、ダッジャールを退治する。マフディーは善男善女を集めて千年至福王国をつくる。イエスをはじめ、多くの聖者が天界から降りて来て、千年間のマフディー統治の間に救える者をみな救う。

�Cマフディーの帰還

　マフディー昇天の七日後、アレクサンダー大王が封印したゴグとマゴグが壁を破って飛び出し、大地を乾燥させ、砂漠化させる。文明はすべて滅びてしまう。

�Dトランペットが鳴り響く

　神は、世界を見回し、もはや救えるべき者は一人もいないことを確かめる。神は、イスラーフィールに命じてトランペットを吹かせ、最後の日が来たことを告げさせる。三回目の音が鳴り響くと、マホメットが幻獣ブラークに乗って降りて来る。大天秤がすえつけられて、最後の審判が始まる。

参考１．アザゼルの立場

�@神は、アザゼルを追放したが、罰するかどうかは審判の日が来たら改めて考えることにし、アザゼルの仕事ぶりを見守っている⇒『コーラン』15:26-50; 17:61。ジン（悪魔）たちの中には、この猶予期間の間に罪が消える者もいる。

�Aアザゼルには、神に従わない者の運命を自由にする権利が与えられている。

参考２．イスラーム神学の見解

シーア派系諸派やスーフィズムでは、アザゼルが原人アダムの崇拝を拒んだのは、神への絶対的な愛の現れなので、この事実を知っている神は、すでにアザゼルを許している、あるいは審判の日には許す決意をすでに固めていると考えている⇒エスポジト責編『オクスフォード現代イスラーム世界百科事典』第四巻「サタン」の項；プロゾロフ責編『イスラーム百科事典』「サタン」の項；ＨＰ《ミトラ教の歴史１》の「孔雀の時代」

参考３．アザゼルの役割

　悪魔は、通常、病気と不幸をもたらすが、詩人、芸術家、霊媒などにとり憑く場合には、必ずしも悪さをしない。むしろ積極的に助けるとされている。（エスポジト責編『オクスフォード現代イスラーム世界百科事典』第四巻「サタン」の項）

参考４．守護霊

　人間には必ず二人の天使が憑く。一人は守護天使、もう一人は堕天使である⇒エスポジト責編『オクスフォード現代イスラーム世界百科事典』第四巻「サタン」の項。この考え方は、ミトラ教の天使七星学でもおなじみの考え方である。

６．ゾロアスター教（マズダー教）

名称

〔ペ〕マズダヤスナMazdayasna。〔英〕ZoroastrianismまたはMazdaism。

ゾロアスター教の神話に登場する悪神

�@堕天使

ゾロアスター教に堕天使はいない。

�A見張り

　ゾロアスター教に見張り伝説はない。

�B悪神

アンラ・マンユは、悪の原理神であり、堕天使ではない。なぜなら、堕天して悪神になったわけではなく、最初から純粋な悪として存在しているからである。

神話

　すべての始まりに先立って、二柱の神が存在した。一方は、アフラ=マズダーと言い、無限の光明の高みに住んでいた。他方は、アンラ・マンユと言い、暗黒の深みに住んでいた。両者は遠く隔たっていたが、両者を隔てる壁はなかった。あるとき、アフラ=マズダーは、アンラ・マンユの存在を知った。アフラ=マズダーは、アンラ･マンユが邪悪な存在であることを知り、この邪悪な存在に打ち勝ち、永遠の平和（安らぎ）を得るには、物質世界を作り、そこで決着をつける以外に方法がないことを知った。そこで、アフラ=マズダーは物質世界をつくってアンラ･マンユを待ち受けた。予想通り、アンラ・マンユは悪魔の大軍を率いて物質世界に侵入してきた。かくて、この世（物質世界）は善神と悪神の戦いの場になった。この戦いは三千年続くが、やがて世の終わりが来て、最終決戦のときを迎える。

世の終わり

　以下は、ゾロアスター教の教典『大ブンダヒシュン』（以下Bdと略記）と『バフマン･ヤシュト』（BYと略記）による。下記�@は、ササン朝がイスラームに滅ぼされた後に加筆された。

�@ゾロアスター教の滅亡

　マホメットを預言者とあおぐアラブ人がイランの地に侵攻し、ゾロアスター教を滅ぼした。いまや、イランの地は、忌まわしき邪教イスラームに支配されている。アフラ=マズダーを拝む信者は、奴隷のような状態におかれ、暗い日々をおくっている。これから千年、闇に閉ざされた希望のない時代が続く。信者は激減し、ほとんど残らない。BY2

�A司祭ペショタヌが現れる

　千年が過ぎ去ったとき、アフラ=マズダーは、ナルヨーサンハとスラオシャを裁きの山に遣わす。二神は、山頂から司祭ペショタヌに「イランの地に行け！　邪教を滅ぼして、今こそ正しい宗教を復活させよ」と呼びかける。BY3:25-26

�Bペショタヌの勝利

　ペショタヌは150名の弟子とともに黒装束をまとって真言を唱えながらイランに向かって行進する。ペショタヌたちが正しい手順で儀式を行って祭壇に火をともし、アフラ=マズダーを祭って真言を唱えると、忌まわしき邪教とともに敵の三分の一がたちまち滅びる。BY3:27-29

�C第一の救世主が現れる

　アフラ=マズダーが天に向かって呼びかけると、ミトラ、スラオシャ、ラシュヌ、バフラームらが現れ加勢する。ミトラの命令で、第一の救世主フシェダルが現れ、正しい宗教を回復する。こうして千年が過ぎる。末期になると、悪魔たちがふたたび勢力をもりかえす。BY3:42-43

�D第二の救世主が現れる

　アフラ=マズダーが呼びかけると、第二の救世主フシェダル・マーフが現れる。正しい手順で儀式を行って祭壇に火をともし、アフラ=マズダーを祭って真言を唱えると、悪魔たちはたちまち滅びてしまう。第二の救世主のもとで、人類は呪術医術を進歩させる。祈祷・お祓い・治療が大いに人々の役に立ち、人々はほとんど不死に近い身体をもつようになる。平和のうちに千年が過ぎる。BY3:43, 53

�Eダハーカ竜王が現れる

　アンラ・マンユの呼びかけで、ダハーカ竜王がよみがえる。ダハーカ竜王は、この世に恐るべき罪をまきちらす。人類、牛、羊など、あらゆる生き物の三分の一が死滅する。水、火、植物がけがされ、罪に染まる。BY3:59

�F竜王が退治される

　アフラ=マズダーの命令で、スラオシャとナルヨーサンハが勇者サームをゆすり起こす。サームは、ダハーカ竜王を戦闘用のこん棒でなぐり殺す。BY3:61, Bd29:8-9

�G第三の救世主が現れる

　第三の救世主サオシャントが現れ、すべての生き物をきよめて復活させる。BY3:62; Bd30:4

�H裁きが行われる

　すべての人間が復活すると、ザラスシュトラの長男を司祭長とする一団が現れ、最後の審判を下す。義人たちと邪悪なる者たちが分けられる。義人たちは天国へ迎えられ、悪人たちは地獄に放りこまれる。Bd30:12

�I聖牛の供儀が執り行われる

　第三の救世主サオシャントは、聖牛の供儀を執り行う。白ハオマ樹でフーシュを準備し、それをすべての善人に分け与える。すると、みな不老不死になる。Bd30:25

�J大決戦が起きる

　総仕上げとして、アフラ=マズダーとアムシャスプンタが大悪魔に襲いかかる。アンラ･マンユとアズを残し、他の大悪魔はすべて討ち殺される。Bd30:29

�Kアンラ・マンユの最後

　アフラ=マズダーは、この世に転生し、司祭長と副司祭長を率いてお護摩を焚きつつ一心に祈念する。すると、アンラ・マンユとアズは力を封じられ、地獄に落ちて、燃え滅びる。彼らとともに地獄を染め上げていた邪念も焼かれて消え、地獄は清浄になる。Bd30:30-31

�Lイランの地は栄える

　アフラ=マズダーは、地獄を開放して大地を広げる（人間の居住可能地域を広げる）。チンワトの橋を支えていた山がなくなるので、橋は消滅する。豊かな世界が永遠に続く。Bd30:32-33

　

参考１．教義

　アンラ・マンユは、善神アフラ=マズダーに対抗する悪神である。アンラ・マンユAngra Mainyuという名前は、怒りの霊を意味する。アンラ・マンユは、純粋な悪であり、純粋な善であるアフラ=マズダーとは、いかなる接点もない。ゾロアスター教におけるアンラ･マンユは、まったく同情の余地のない究極の絶対悪である。それゆえ、赦されることは、絶対にない。

参考２．大罪

　ゾロアスター教においては、アンラ・マンユを赦すことは、もっとも重い大罪である。なぜなら、アンラ･マンユを赦すことは、絶対善であるアフラ=マズダーにも悪い点があったことを意味することになり、アフラ=マズダーの絶対善という性格付けに矛盾が生じるからである。

参考２．四大邪教と悪魔族

　ゾロアスター教は、アレクサンダー大王、マホメット、トルコ王を三大悪魔と呼び、ギリシア人、アラブ人、トルコ人を悪魔族と呼んでいる。そして、アレクサンダー大王に象徴される西方の三宗教（ギリシア多神教、ミトラ教、キリスト教）と、マホメットが創始しトルコ王が庇護したイスラームを合わせて四大邪教と呼んでいる。四大邪教の中では、イスラームが最悪である。ゾロアスター教の黙示録は、史上最悪の邪教イスラームが滅ぼされる日が必ず来ると説くものである。⇒『バフマン･ヤシュト』1, 2

以　　　上