西方ミトラ教の神話

――ヘレニズム時代のミトラ神話――

　

　

　

目次

目次

ねらい

より正確に理解するには

参考

 

第一部    解説

　１．西方ミトラ教の定義

　２．名称

　３．別名

　４．成立年代

　５．使徒

　６．聖王

　７．概要

　８．主祭神

　９．経典

１０．大和宝巻

 

第二部    神話の概要

　１．太初

　２．三兄弟の約束

　３．ゼウスは約束を破る

　４．プルートーの怒り、ゼウスの悲しみ

　５．ミトラ登場

　６．聖牛の供儀

　７．世界の再生

　８．プルートーの怒りを解く

　９．聖餐式と展開への帰還

１０．ミトラはコスモクラトールになる

補１．ミトラ七曜神

補２．女神たち

補３．人間

補４．死後の裁き

補５．世界の終末

補６．ザラタス

 

 

ねらい

　ミトラ神話を総合的かつ正確に理解すること。

　

　

より正確に理解するには

　西方ミトラ神話を伝える経典の正式版・完全版は、『ケウル−ミトラ聖典』の中に「西方ダウル記１」「西方ダウル記２」「マテセオス」「ミトラ典礼書」「ミトラの秘儀」として収録されている。

　

　

参考

根本聖典

・東條真人『ケウル−ミトラ聖典』MIIBOAT Books、2006

 

ミトレーアム公式ＨＰ

・ＨＰ《ミトラ神話１．ミタンニ･メディア時代のミトラ神話》

・ＨＰ《神話学１．ミトラ教の基本》

・ＨＰ《ミトラ教．神話学４．ギリシア神話・哲学とミトラ教》

・ＨＰ《西方ミトラ教の歴史》

　

西方ミトラ神話

・東條真人『ミトラ神話』国書刊行会、1996

・ＨＰ《カルデアン・マギとザラタス》

・ＨＰ《ザラタスの伝説と言葉》

・ＰＤＦ．東條真人『ミトラ神話．ローマ帝国のミトラ神学』ミトラ教天使七星教会、２００５年９月号

・ＰＤＦ．東條真人『ミトラ神話．ローマ帝国のミトラ神学』ミトラ教天使七星教会、２００５年６月号

・ＰＤＦ．東條真人『ミトラ神学．星座神話』ミトラ教天使七星教会、２００５年１月号

 

 

第一部　解説

――西方ミトラ教の概要――

 

 

１．西方ミトラ教の定義

　ミトラを主神として、シリア内陸部からクルディスタンにかけての地域で成立し、地中海世界全域に広まった世界宗教。

 

 

２．名称

　正式名称はラテン語で、ミトラの秘儀Mysteria Mithraeと言う。

 

 

３．別名

　クルド語では、ミフリーヤMihriyya。英語では、ミトラ教Mithraism。英語は近代になってからつくられた造語。

 

 

４．成立年代

　前２世紀

 

 

５．使徒

　聖なる司祭マクシムスを含むカルデアン・マギの一団。彼らは、アラム語を母語とするシリア人（パルミュラ系）であった可能性が高い。いずれにせよ、クルド人・パルティア人・シリア人の生活と宗教的伝統をよく知っているだけでなく、ヘレニズム的教養を身につけ、ギリシア語・ラテン語を使うことができたことは確かである。

 

 

６．聖王

　アレクサンダー大王、パルティア王国のミトラダテス一世と二世、ポントゥス王国のミトラダテス六世、ローマ帝国のマルクス＝アウレリウス帝、カラカラ帝、ヘリオガバルス帝、ディオクレティアヌス帝、ガレリウス帝、マクシミアヌス帝、ユリアヌス帝。

 

 

７．概要

　西方ミトラ教は、ヘレニズム的な環境で育ったカルデアン・マギが創始した宗教である。シリア内陸部からクルディスタンにかけての地域で誕生し、西進して、ローマ帝国領内に広まり、世界宗教になった。西方ミトラ教は、ズルワーン教がつくりあげた神系譜を継承しながら、ミトラの時代が到来したことを強調した（新周期神話）。ズルワーン教の占星術的教義も継承し、神聖数七にもとづく象徴体系を確立した。七曜神、七つの位階からなる「ミトラの秘儀」など、あらゆるものが神聖数七にもとづいて整理されている。星辰象徴は、西方ミトラ教の建築・工芸のさまざまな面に反映されている。寺院（ミトレーアム）内部の天井は、プラネタリウムのように星空になっている。聖牛の供儀をかたどった聖図像は、牡牛座周辺の星座マップになっている。ミトラ像は十二星座に囲まれ、七曜神を伴っている。西方ミトラ教は、マズダー教の影響力が及ばない地域で生まれ、ローマ世界に広がった。それゆえ、アーリマンを復活させることができた。

 

補注　ヘレニズム化

　西方ミトラ教は、使用言語をクルド語・ペルシア語からギリシア語・ラテン語に切り替えた。神名も、ミトラの名だけを残し、他の神々の名前はすべてギリシア・ラテン名に切り替えた。この大胆な改革が成功し、西方ミトラ教は西に向かって一挙に広がった。布教の際には、�@ミトラが新周期の主（最高神）であること、�Aミトラの秘儀に入ることで不老長寿を達成するための養生法が学べることが強調された。

 

 

８．主祭神

　ミトラと七曜神。

 

 

９．経典

�@聖図像

　・連画形式の聖図像　……創世神話　⇒ＰＤＦ『ミトラ神学研究辞典』

　・奉納碑文　……至高神ミトラ、新周期の主ミトラ

 

�A典礼文

　・ミトラ典礼　Papyri Graecae Magicae IV.475-829; V.1-53; I.42-195　……ミトラ典礼　⇒ＰＤＦ．通信講座�U教科書

　・七曜神典礼　Papyri Graecae Magicae I.262-347; XIII.646-734　……七曜神典礼　⇒ＰＤＦ．正典『天真弥勒大讃願経』

 

�B秘儀注釈書

　・ポルピュリオスの『妖精の洞窟』　De Antro Nympharum　……七位階の秘儀についての解説

 

�C教典

　・プラトン

　　- 国家　Πολιτεια　……アーリマン崇拝、死後の裁き、輪廻転生、哲人統治論

　　- 法律　Νομοι　……アーリマン崇拝、ミトラの秘儀、聖法論

　　- パイドン　Φαιδον　……輪廻転生

　　- 神学　Απολογιε　……輪廻転生

　　- ティマエウス　Τιμαευς　……来世観、人間の誕生

　　- 饗宴　Συμποσιων　……ミトラの秘儀、神観念

　　- パイドロス　Φαιδρος　……ミトラの秘儀

　・キケロ

　　- スキピオの夢　Dream of Scipio　……来世観

　・カルデアン･オラクル　Ορακυλα Χαλδαικα 　⇒ＰＤＦ．正典『カルデアン･オラクル』

　・ヘルメス文書　Hermetica　……教義書　⇒ＰＤＦ．通信講座�U教科書

 

�D神話

　・ペルセウス神話

 

�E叙事詩

　・サスナ・ツレル　Sosna Tsrer　……ミトラ一代記　⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「ミトラ武勇記」に全文収録；ＰＤＦ『ミトラ神学研究辞典』

 

�F西方ミトラ教に関する記述を含むその他の資料

　・東方ミトラ教の正典　⇒ＨＰ《ミトラ神話５．東方ミトラ教の神話》

　・弥勒教の宝巻　⇒ＨＰ《ミトラ神話６．弥勒教の神話》

　・ヤズダン教の正典　⇒ＨＰ《ミトラ神話７．ヤズダン教の神話》

　・クルド民族伝承　　⇒ＰＤＦ．正典『天真弥勒大讃願経』

　

 

１０．大和宝巻

　大和宝巻については、ＨＰ《孔雀時代の新宝巻》を参照のこと。

　

友道

・武井宏之『シャーマンキング』現在２７巻、ジャンプ・コミックス、集英社、発表1998〜連載中

・富樫義博『幽遊白書』全１９巻、ジャンプ・コミックス、集英社、発表1990〜1994年

・富樫義博『ＨＵＮＴＥＲ×ＨＵＮＴＥＲ』現在１８巻、ジャンプ・コミックス、集英社、発表1998〜連載中

・姫川明『Astro Boy 鉄腕アトム』現在２巻、小学館、発表2003〜連載中

・横山光輝『バビル二世』全８巻、秋田文庫

・雷句誠『黄金のガッシュ』現在１３巻、少年サンデーコミックス、小学館、発表2000〜連載中

　

友道の秘儀

・木原敏江『摩利と新吾』全８巻、白泉社文庫、発表1977〜1984年　⇒ＨＰ《天使学１．木原敏江先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

　

ミトラとアーリマン

・青池保子『七つの海七つの空』秋田文庫、発表1976年

・樹なつみ『花咲ける青少年』全６巻、白泉文庫、発表1987〜1995年

　

女神たち

・あしべゆうほ『クリスタル･ドラゴン』現在３巻、秋田文庫、発表1981〜連載中

・中山星香『妖精国の騎士』現在１６巻、秋田文庫、1986年〜連載中　⇒ＨＰ《天使学７．山中星香先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

　

 

 

第二部　神話の概要

 

 

　正式完全版は、『ケウル−ミトラ聖典』の「西方ダウル記２」を参照のこと。

 

 

１．太初

　はじめに、永遠時間の神クロノス（ズルワーン＊）がいた。クロノスの王国は、光の国と呼ばれ、十二星座に囲まれていた。クロノスの時代は、黄金の種族と白銀の種族が住む幸福な時代であった。

　

＊ズルワーン　Zurwân。永遠時間の神。ズルワーンを老アイオーン、ミトラを若アイオーンとし、両者を一体化する伝統は、ズルワーン教・東方ミトラ教・弥勒教にも見られる。

　

 

２．三兄弟の約束

　周期が満ちると、老クロノスは、三兄弟を呼んだ。長兄プルートー（アーリマン）には姿隠しの兜〔かぶと〕、次男ポセイドン（アパム･ナパート＊）には三叉の戟〔みつまたのほこ〕、末子ゼウス（アフラ=マズダー）には雷電を与えた。クロノスは、三兄弟に世界を配分統治させることにし、冥府をプルートーに、海をポセイドンに、地上をゼウスに統治させ、天上王権はゼウスに譲った。このとき、ゼウスは、海神ポセイドンから生命の種子をもらって、生き物をつくること。すべての生き物には、寿命を定め、寿命が来たら冥府神プルートーのもとに送ることという約束をさせた。プルートーは長男の自分ではなく、末子ゼウスが天上王権を受け継いだことに不満をいだいたが、それを口に出すことはひかえた。

　

＊アパム･ナパート　Apam Napât。諸水の子の意。生命の種子の集合体、あるいは生命の種子の貯蔵庫としての原初の大洋に住む神である。

　

 

３．ゼウスは約束を破る

　ゼウスは、自分の時代を始めるに当たって、聖王ディオニューソスをつくり、地上の王にした。それから、聖王ディオニューソスに聖牛を与えるとともに、不老不死の仙酒ソーマのつくり方を教えた。ディオニューソスは、ソーマ酒をつくって、すべての生き物たちに分け与え、すべての生き物を不死にしようとした。

　

 

４．プルートーの怒り、ゼウスの悲しみ

　プルートーは、これを伝え聞いて激怒した。なぜなら、天上王権のことで、ただでさえ不満がつのっていたところに、ゼウスが重大な約束違反をしたからである。プルートーは、ライオンの仮面と姿隠しの兜をつけて戦闘の準備を整えると、ゼウスの王国に攻撃をしかけた。プルートーが太陽、月、星々の光を消したので、長い冬が訪れ、地上のすべてが死に絶えた。真っ暗な闇の中、プルートーが送り込んだ巨人族が聖王ディオニューソスを襲い、八つ裂きにして食べた。

　これを見て、ゼウスは怒り、稲妻の一撃で巨人たちを焼き滅ぼし、灰にした。巨人の生き残りは聖牛を連れて冥府に逃げ帰った。灰は、風に乗って飛散し、世界中に運ばれ、四元素と入り混じった。

　ゼウスは灰を集めてディオニューソスを復活させようとした。しかし、灰はわずかしか集まらなかった。ゼウスが灰をかためて人間のかたちにしようとしても、すぐに崩れ、固まらなかった。ゼウスは嘆き悲しみ、悲嘆にくれた。

 

＊聖牛　〔ク／ペ〕ガーウGâw。聖牛は、さまざまなかたちで、ペルシア系の神話に登場する。

　

 

５．ミトラ登場

　女神ニュクスはゼウスに霊山に上り、老クロノスに相談するように勧めた。彼女の勧めに従って、ゼウスは霊山に上り、老クロノスの住む洞窟を訪ねた。老クロノスは洞窟の中からミトラを連れて現れた。老クロノスは、「この子に任せなさい。この子は、わが化身だ」といって、ミトラを紹介した。

 

 

６．聖牛の供儀

　ミトラは、ゼウスから話を聞くと、プルートーが隠した聖牛を見つけ出すために稲妻となって地上に降りた。日輪神ソル（フワル＊）は、日ごろミトラと張り合っていたが、クロノスに命じられたので、カラスを使者としてミトラのもとに行かせた。ミトラは、カラスの案内で数々の苦難を乗り越えて、冥府のはずれの草地にいた聖牛をつかまえ、聖なる洞窟で供儀＊を執り行った。

　

＊フワル　〔ク／ペ〕Xwar。太陽円盤を象徴する神。

＊供儀　くぎ。この供儀を描いた浮き彫りや聖画には、カウテスとカウトパテス、カラス、聖牛、クラテール、蛇、サソリ、犬、ライオン、麦穂が描かれている。これらは、双子座、カラス座、牡牛座、コップ座、蛇座、蠍座、犬座、獅子座、乙女座に対応し、全体として牡牛座近辺の星座マップになっていると考えられている。

　

 

７．世界の再生

　聖牛が死ぬと、大きな奇蹟が起きた。白い聖牛から立ち昇った光は天に昇り、太陽、月、そして星々に次々と火をともし、光をよみがえらせた。そのようすは、まるで、闇の中に無数の火の花が咲いたようだった。聖牛の尾と血からは麦穂とブドウが実った。睾丸からは精液が流れ出たので、ミトラは、それをクラテールという容器（大甕）にため、これに灰の入り混じった四元素を混ぜた。すると、四元素は固まるようになった。

　ミトラは、この聖なる種子と四元素を混ぜて、人間を含む地上のあらゆる生き物を作り出した。草と木々も作り出した。見る間に草が芽吹き、緑のカーペットが広がって行った。すくすくと樹木が伸び、あちこちに森ができた。動物、鳥、魚、人間、妖精たちが次々と復活し、海、山、森、草原、湖、渓谷、あらゆるところに満ちあふれた。死の世界は生き返り、活気と喜びでいっぱいになった。

　ミトラが天に合図を送ると、昼と夜が生まれ、交互に交代するようになった。月は再び満ち欠けをはじめた。時と四季が生まれ、一年という周期が生まれた。季節とともに十二星座の輪も回り始めた。こうして、緑豊かな平和な世界が復活した。ミトラはすべてを復活させたが、春分点のずれだけは、直さなかった。教訓として残したからである。一匹の蛇（大地の精）は聖牛の血をなめ不死となり、一匹のサソリは聖なる種子を下生のときのために保存した。カラスは風、ライオンは火、蛇は地、サソリは水を守護することになった。ソルは、これまでミトラに対抗意識をもっていたが、ミトラの途方もない奇跡の力を見て、実力の差を悟った。ソルは、すぐに、カラスを使者として遣わし、聖牛の種子から生まれたものたちの生育を熱で育てると約束し、協力して世界を繁栄させる盟友になった。聖牛は生気をすべて放出したので、あとには皮と四足だけが残った。そこで、カウテスとカウトパテスは、四足でテーブルを、皮でテーブルクロスをつくり、祭壇に安置した。

　ミトラは、人間たちとともに暮らし、彼らを導いた。大干ばつの時には、岩を矢で射って水を湧かせた。

　

 

８．プルートーの怒りを解く

　ミトラは、冥府に降りて行った。怒りに燃えるプルートーは、ミトラを見ると襲いかかってきた。はげしい戦いの中、ミトラがある提案をすると、プルートーは怒りを解いた。ミトラの提案には心がこもっていたからであった。プルートーはミトラの友となった証しとして、冥府から聖牛の魂を地上に返し、農業神ドゥルワースプ（シルヴァヌス）としてよみがえらせ、森林、田畑、家畜を守護させた。

　

 

９．聖餐式と天界への帰還

　ある日、日輪神ソルがミトラを迎えにやって来た。ソルは、すでに聖牛の供儀ですっかり信服していたが、プルートーの怒りを解いただけでなく、友だちにまでしてしまったことを知り、ミトラを尊敬する気持ちがますます高まっていた。ソルは、大地に降り立つと、すぐさまミトラの前にひざまずき、「新しい周期の王よ」と呼びかけ、自分の頭上に輝いていた後光をミトラの頭上に移した。ミトラはそのおかえしに、宝剣でソルの右肩を軽くたたいてからソルを立たせ、しっかりと握手した。こうして、ソルはミトラの友になった。ミトラは、神事と聖餐式の準備をするため、ライオン、犬、蛇、サソリをお供につれて狩に出かけた。サソリは小さいので、そっとふところに入れた。ミトラはソルを招いて、友人である人間たちとともに神事と聖餐式を執り行い、パンを食べブドウ酒を飲んだ。ソルは御者となって、ミトラを戦車に乗せて大洋を横切って天界に帰って行った。

　

 

１０．ミトラはコスモクラトールになる

　七曜神＊は、ミトラの偉大さをほめたたえた。老クロノスは誇らしげに微笑みながら、プルートー（アーリマン）とポセイドンをつれて現れ、「わしの言ったとおりじゃろう」とゼウスにいった。ゼウスは、微笑んで三神にうなずきかえすと、ミトラに天上王権を禅譲し、ミトラこそ王、無敵の太陽神にして、コスモクラトール（全宇宙の守護者）であると高らかに宣言した。居合わせたすべての神々が歓呼の声をあげ、ミトラをかつぎあげ、玉座に座らせた。こうして、ミトラが統治する新たな時代が始まった。

　

＊七曜神　しちようしん。ミトラ教の聖画・聖像には、必ずといってよいほど登場する。配列には、カルデア式惑星配列（土星、木星、火星、太陽、水星、金星、月）と七曜配列（日曜、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜）の二つの方式がある。七曜配列にしたがうと、土曜／土星はクロノス、木曜／木星はゼウスまたはディオニューソス、火曜／火星はマルス、日曜／太陽はミトラとソル、水曜／水星はヘルメス、金曜／金星は女神アフロディテ、月曜／月は女神ルナである。ミトラ神話は、土曜（クロノスの統治）→木曜（ゼウスの統治）→火曜（プルートーの反乱）→日曜（ミトラによる復興）と世界周期を回している。この伝統は、ヤズダン教に引き継がれている。

　

 

補遺１．ミトラ七曜神

　ミトラはつねに、七曜神にとりかこまれている。彼らは、ミトラとともに活動し、世界の平和と繁栄を支えている。ミトラの聖図像には、必ず七曜神が描かれている。

　

表　ミトラ七曜神

七曜	七惑星	七曜神	秘儀の七位階＊
日曜	太陽	ソル＊、次の周期からプルートー＊	ヘリオドロムス／治道
月曜	月	女神ルナ＊	ペルセス／酔胡
火曜	火星	マルス＊	ミレス／明王
水曜	水星	ヘルメス＊	コラックス／烏天狗
木曜	木星	ゼウス＊、またはディオニューソス	レオ／勝者
金曜	金星	女神アフロディテ＊	ニンフ／女道士
土曜	土星	クロノス＊	アキラ／法堂主

＊秘儀の七位階　各位階の信徒は、その位階を守護する七曜神に護られている。

　

＊ソル　〔羅〕Sol。日輪神。とりわけ、ドイツ南部のライン川流域の信徒に人気があった。

＊プルートー　〔希〕Ρλουτων。ハデースΑιδηςともいう。冥府の神。冥府での約束により、ミトラより次の周期から太陽紀の統治を任された。

＊ルナ　〔羅〕Luna, Diana。〔希〕アルテミスΑρτεμις。月の女神。

＊マルス　〔羅〕Mars。〔希〕アレースΑρης。戦争の神。火星の神。

＊ヘルメス　〔希〕'Ελμης。〔羅〕メルクリウスMercurius，マーキュリーMercury。〔ペ〕ティールTyr。ナルヨー・サンハNairyô Sangha。水星の神。

＊アフロディテ　〔希〕Αφροδιτη。〔羅〕ヴィーナスVenus。金星の女神。知恵と性愛の女神。

＊ゼウス　〔希〕Ζευς。〔羅〕ユピテルJupiter。木星の神。

＊ディオニューソス　〔希〕Διονυσος。〔羅〕Dionysus。木星の神。木星は、不老不死の仙酒（ブドウ酒とザクロ酒）と結びついている。

＊クロノス 〔希〕クロノスΚρονος, Χρονος。〔羅〕サトゥルヌスSaturnus。土星の神。

　

補遺２．女神たち

　ローマ帝国領内の西方ミトラ教寺院跡からは、多数の女神像が見つかっている。最も人気を集めているのは、ミネルヴァ＊とヴィーナスである。これに次いで人気があるのは、ルナとヘカテ＊（キュベレー＊）である。これらの女神たちは、信徒の求めに応じて、さまざまな場面に現れ、信徒たちを助けている。特別な役割を持つ女神として、勝利の女神＊がいる。彼女は、綺羅の霊（ミトラの分霊）として活動し、ミトラの特別な加護をもたらす。

 

＊ミネルヴァ　〔羅〕Minerva。〔希〕アテナΑθενα。知恵と武勇の女神。火曜、火星、ミレスの位階に関係する。ヴィーナスと人気を二分する。

＊ヘカテ　〔希〕'Εχατη。〔羅〕Hecate。ソフィア（無極聖母）のこと。プラトンは、アナンケ'Ανανκηと呼んでいる。ヘカテもアナンケも三面の大女神で、三人の娘がいる。西方ミトラ教では、ヘカテとキュベレーを同一視する。ミトレーアムには必ず、この大女神の像が安置されている。

＊キュベレー　〔希〕Κυβελη。〔羅〕Cybele。小アジア半島の地母神。小アジアから黒海沿岸のクリミア半島にかけての地域では、キュベレーをソフィア、アッティスをミトラに習合させ、キュベレー司祭団とミトラのマギ団は連合して、一つの秘儀を形成し、男女の信徒を分担していた。彫像類も多数見つかっている。

＊勝利の女神　〔希〕テュケーΤυχη。〔羅〕フォルチュナ＝ヴィクトリクスFortuna=Victorix、あるいはグローリアGloria。〔メディア語〕ファルナーFarnah。〔ペ〕フヴァルナKhvarenah。ファルナーとフヴァルナはともに、太陽を意味する言葉フワルの派生語で、光輪を意味する。勝利の女神は、このヘレニズム的姿である。綺羅の霊としての彼女のイメージについては、大和宝巻『クリスタル･ドラゴン』における風の精の王、『妖精国の騎士』における光の精霊を参照のこと⇒大和宝巻の項参照。

　

 

補３．人間

　人間の身体は、四元素でできている。人間の生気は聖牛の精液による。人間の善意と夢想性は、四元素の中に混じっていた灰（ディオニューソスの肉）に由来する。人間の悪意と欲は、四元素の中に混じっていた（巨人たちの肉）に由来する。

 

 

補４．死後の裁き

　魂が身体からはなれたとき、魂のおこないを裁くための審問がおこなわれる。魂の運命は、ミトラの裁きにゆだねられる。ミトラが、魂を義であると認めたなら、魂はその性質にふさわしい王国に住むことになる。しかし、魂に罪がしみついていて、どうしようもないほど悪にそまっていると判断したなら、ミトラは、魂を下方に投げ捨て、風の領域の縁で風がたえず火と水とぶつかりあっているところにある嵐とつむじ風のなかに放り込み、永遠の罰を与える。邪悪な魂は、そこで天と地の間にある宇宙物質のなかを上へ下へと翻弄される。そして、一定の期間が過ぎたなら、ふたたびこの世に転生させられる。⇒『アスクレピウス�V』28；プラトンの『国家』10:13-16

 

　

補５．世界の終末

　一定の定められた時間が過ぎたとき、コスモスは業火に包まれて、燃え尽きる。そして、灰の中から新たなコスモスが生まれる。⇒サンタ･プリスカ教会地下から出土したミトラ教碑文、ドイツ・ディーブルグ出土の浮き彫りによる

 

　

補６．ザラタス

　カルデア（バビロニア）には、カルデアン･マギと呼ばれる司祭団がいた。彼らの教師は、メディア生まれの太古の賢者ザラタスであり、哲学と占星術をこの賢者から受け継いだ⇒アリストゼノス『ピタゴラス伝』。ザラタスは、世界で最初にミトラに聖なる洞窟をささげる栄誉を授かったマギである。これに応え、ミトラは、聖なる洞窟の内部をコスモスのモデルに作り変え、ザラタスを招き入れて、宇宙誕生の秘密と占星術を教えた⇒ポルピュリオス『妖精の洞窟』。⇒ＨＰ《カルデアン・マギとザラタス》；ＨＰ《ザラタスの伝説と言葉》

 

　

　

以　　　上