ヤズダン教の神話

――現代クルドのミトラ神話――

　

 

 

目次

目次

ねらい

より正確に理解するには

参考

 

第一部    解説

　１．ヤズダン教の定義

　２．名称

　３．別名

　４．成立年代

　５．宗派

　６．使徒

　７．聖王

　８．概要

　９．アリヤマン復活の背景

１０．神話の特徴

１１．七曜と七大天使

１２．主祭神

１３．経典

１４．位階

１５．大和宝巻

 

第二部    神話の概要

　１．太初

　２．七曜天使の創造

　３．天地創造

　４．アダムとイヴの創造、アザゼルの堕天

　５．アザゼルの復活

　６．アッダイの召命

　７．孔雀時代の始まり

　８．王朝史

　９．一年の計を立てる

１０．友情の儀式

１１．ミトラ聖誕祭（ミトラマス）

１２．アザゼルの啓示

　

 

ねらい

　ミトラ神話を総合的かつ正確に理解すること。

　

　

より正確に理解するには

　『ケウル−ミトラ聖典』の「黒の書」「孔雀の書」「啓示の書」「太陽の書」「七大天使の書」「七大天使の真名の書」「聖七文字の書」「神秘の書」「注釈集」「ダウル記２」「火の鳥の物語」を読むとよい。アザゼル復活の秘密教義の全貌がわかる。

　

　

参考

根本聖典

・東條真人『ケウル−ミトラ聖典』MIIBOAT Books、2006

 

ミトレーアム公式ＨＰ

・ＨＰ《ミトラ神話１．ミタンニ･メディア時代のミトラ神話》

・ＨＰ《神話学１．ミトラ教の基本》

・ＨＰ《ミトラ神学２．ミトラ教とスーフィズム：開けゆく連続性》

・ＨＰ《東方ミトラ教の歴史》

　

スィームルグ文化

・ＰＤＦ．『ミトラ教研究．ミトラ教とスィームルグ文化』ミトラ教天使七星教会、2006年2月

・ＰＤＦ．Jamshidi, Jamshid, Dr. farhang-e iran, 2005；ジャムシディ，ジャムシッド『イランの文化』2005

・ＰＤＦ．Jamshidi, Jamshid, Dr. pishnefad arm piuned jahane v keshury, 2006；ジャムシディ，ジャムシッド『世界を結ぶ象徴の紋章』2006

 

 

 

第一部　解説

　

　

１．ヤズダン教の定義

　ヤズダン教は、イスラームと習合したミトラ教、すなわち現代のミトラ教である。

 

 

２．名称

　ヤズダン教という名称は、ミトラ教の現代クルド語における名称である。ヤズダンYazdanは、クルド語で至高神・最高神・唯一神・絶対神であるミトラを意味する。

 

 

３．別名

　天使教Yarsanism、神友教（デーネ・ヤーリ）Den-e Yari、ミトラ派イスラーム（ミール･イスラーム）Mir Islam。

 

 

４．成立年代

　７世紀

 

 

５．宗派

　孔雀派（イェジディ）Yezidi、天真派（アフレハック）Ahl-e Haqq、神火派（アレウィー＝ベクターシュ派）Alewi-Bektashi、ドゥルーズ派Druze、イスマーイール派Isma'iliyya、ザイード派Zaydiyyaなど。

 

 

６．使徒

　大マニ、大アッダイ（アディー）、バスラのハサン、ハッラージュ、ヤーデガール、ヌサイルなど。

 

 

７．聖王

　下記のとおり。以下に、年代順に列挙しておく。

 

表　聖王

名前	欧文表記	生年（在位年）	備考
サハック王	Sahak(Astyages)	584-549 B. C.	メディア帝国の王。ミトラ単一神教を国教化し、ミトラ崇拝を全土に確立した。
アルタクセルクセス一世	Artaxerxes I	486-465 B. C.	アケメネス朝ペルシアの皇帝。ミトラ教を庇護した。
アルタクセルクセス二世	Artaxerxes II	404-359 B. C.	アケメネス朝ペルシアの皇帝。ミトラ教を庇護し、ミトラカーナ大祭とミトラ単独公式祭儀を復活させた。
アレクサンダー大王	Alexander	336-323 B. C.	アレクサンダー帝国の創始者。ミトラ＝アポロ崇拝を奨励した。マズダー教を徹底的に破壊した。
ミトラダテス一世	Mithradates I	170-138 B. C.	パルティア王国の王。ミトラ崇拝を奨励した。
ミトラダテスニ世	Mithradates II	124-88 B. C.	パルティア王国の王。ミトラ崇拝を奨励した。
ミトラダテス六世	Mithradates VI	121-83 B. C.	ポントゥス王国の王。ミトラ教を国教化。この王国の将兵は、西方ミトラ教をローマ帝国に広めた。
シャープール一世	Shâpûr I	241-273	ササン朝ペルシアの皇帝。大マニを庇護し、東方ミトラ教の後ろ盾となった。
シャープール二世	Shâpûr II	307-379	ササン朝ペルシアの皇帝。東方ミトラ教を庇護した。
ヤズデギルド二世	Yezdegird II	438-457	ササン朝ペルシアの皇帝。東方ミトラ教を庇護した。
ホスロー一世	Khusraw I	531-579	ササン朝ペルシアの皇帝。東方ミトラ教を庇護した。
ムアウィヤ一世	Muawiya I	661-680	イスラーム・ウマイヤ朝の始祖。孔雀時代最初の王朝をつくった。アザゼル復活を世に示した。
イェジド一世	Yedid I	680-683	イスラーム・ウマイヤ朝の皇帝。アザゼルの化身。孔雀派代々のミールの血統をつくりだした。
シャッダード王	Shaddad	951-?	クルド人で、ヤズダン教王朝シャッダード朝を建てた。
アブドゥル・ダウラ王	Abud al-Dawlah	949-983	クルド人で、ヤズダン教王朝ブワイフ朝を建てた。
カリム汗	Muhammad Kalim Khân	1750-1779	クルド人で、ヤズダン教王朝ゼンド朝を建てた。

　

 

８．概要

　ローマ帝国領内に広まった西方ミトラ教は、キリスト教による迫害により、４世紀末までにマニ教化した一部を除いて消滅した。しかし、本拠地クルドのミトラ教は無傷で残り、大マニ・大アッダイの教義を受け入れつつ発展し、西アジアがイスラーム化すると、イスラームと習合し、現在の形態になった。これがヤズダン教である。２００３年現在、信徒総数は、四千万人強である（弥勒教と合わせると、一億人を超える）。クルド、トルコ、イラク、シリア、イラン、アゼルバイジャン、アルメニアにいる。大規模なミトレーアムが六つ、小さなミトレーアムは各地にある。いずれも、ローマ帝国時代の様式で装飾されており、内部礼拝堂の天井はプラネタリウムになっている（これは西方ミトラ教の様式である）。

 

 

９．アリヤマン復活の背景

　イスラームの攻勢により、アリヤマン（アーリマン）を悪神視する勢力（マズダー教）が一掃され、アリヤマン（アーリマン）復活の環境が整った。ミトラ教は、この機会を利用し、アリヤマンを孔雀王アザゼルとして完全復活させるとともに、ダエーワ神族をヤザタ神族に完全復帰させた。

 

 

１０．神話の特徴

　簡素なかたちになっているが、過去のミトラ神話のすべてがすっきりしたかたちで集約されている。

 

 

１１．七曜と七大天使

　七曜と七大天使誕生の経緯を説明する起源神話を持つ宗教は、古今東西を通じて、ヤズダン教だけである。

 

 

１２．主祭神

　ミトラ（イェッラーミール／イェズダンミール）と七曜天使。

 

 

１３．経典

　Ｓは、シーア派・スーフィズムと共有する教典である。

 

�@神話・伝承

　・黒の書　Mashaf Rish　　……創世神話　　⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「黒の書」に全文収録

　・七の書　Kitab al-Haft　……創世神話

　・影たちの書　Kitab al-Azilla　……創世神話　Ｓ　⇒ＰＤＦ『ミトラ神学研究辞典』

　・礎の書　Kitab al-Usûs 　……創世神話　Ｓ

　・啓示の書　Kitab-e Jilwa　……アザゼルの啓示　⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「啓示の書」に全文収録

　・太陽の書　Khorshed Nama　……アザゼル神話　Ｓ　　⇒『ケウル−ミトラ聖典』の「太陽の書」に全文収録

　・聖詩集成　Diwan-e Qewl　……伝承（創世神話を含む）、讃歌、教義など　⇒ＰＤＦ．正典『天真弥勒讃願経』

 

�A秘儀

　・薔薇園の秘密　Gulshan-e Râz　……教義を解説した哲学的神秘詩集。Ｓ　⇒ＰＤＦ．正典『薔薇園の秘密』

　・真理の中庭　Hadiqat al-Haqîqat　……ミトラの秘儀を伝える神秘詩集。Ｓ

　・鳥たちの集い　Manteq at-Tair　……ミトラの秘儀を伝える神秘詩集。Ｓ

　・精神的叙事詩　Masnavi-e Manavi　……ミトラの秘儀を伝える神秘詩集。Ｓ

 

�Bクルド民族伝承　

　・クルド聖詩　Diwan-e Qewl　⇒ＰＤＦ．正典『天真弥勒大讃願経』

　・クルド口伝集成　Kurd Oral Tradition

 

 

１４．位階

　ミトラの秘儀には、七つの位階がある。ヘレニズム時代には、ラテン語が使われたが、現在は、クルド語・アラビア語が使われている。この他に、氏子＊もいる。

　

＊氏子　うじこ。〔ク〕ミジェウィルmijewir、フェラシュferrash。

　

表　七位階

位階名＊	クルド語・アラビア語	西方ミトラ教時代の呼称
弥勒転世＊	ミールMîr／ピスミールPismîr	アキラ／法堂主
教父／教母	ババシャイフBaba sheykh／ケワネKevane	ヘリオドロムス／治道
長老	シャイフsheykh	ペルセス／酔胡
長老補	ピールpîr	レオ／勝者
修行者＊	フェキールfeqîr／フェクレヤトfeqreyyat	ミレス／明王
吟遊者	ケワルqewwal	ニンフ／女道士
従者	コチェクkochek	コラックス／烏天狗

＊位階名　クルド語・アラビア語の日本語訳。

＊弥勒転世　女性であることを特に示す必要がある場合には、ピスミールという。

＊修行者　男性はフェキール、女性はフェクレヤトという。

　

　

１５．大和宝巻

　ヤズダン教は、すべての集大成なので、大和宝巻のすべてと結びついている。哲学、秘儀、イメージなどについては、ミトラ単一神教、西方ミトラ教、東方ミトラ教、弥勒教の大和宝巻の項も参照のこと。大和宝巻全般については、ＨＰ《孔雀時代の新宝巻》を参照のこと。

　

天道

・木原敏江『あ〜ら わが殿！』秋田文庫、発表1972年　⇒ＨＰ《天使学１続編．木原敏江先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ（その２）》

・木原敏江『銀河荘なの！』秋田文庫、発表1974年

・木原敏江『王子さまがいいの！』秋田文庫、発表1976年

・木原敏江『天まであがれ！』全２巻、秋田文庫、発表1975年

　

哲学

・華不魅『鉄錆廃園』全６巻、ビブロスコミックス、ビブロス、発表1990〜1996年

・しめのつかさ／原作前田珠子『孔雀の庭』あすかコミックスＤＸ、角川書店、発表1998, 1999年

・水木しげる『悪魔くん』ちくま文庫

・水木しげる『悪魔くん千年王国』ちくま文庫

・武井宏之『シャーマンキング』現在２７巻、ジャンプ・コミックス、集英社、発表1998〜連載中

　

アザゼルのイメージと性格

（１）復活後のアザゼル

・青池保子『エロイカより愛をこめて』現在１８巻、秋田文庫、発表1976〜連載中　⇒ＨＰ《天使学６．青池保子先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

・青池保子『エル・アルコン―鷹―』秋田文庫、発表1976年

・中山星香『花冠の竜の国』現在８巻、秋田文庫、1980年〜　⇒ＨＰ《天使学７．山中星香先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

　

（２）暗さを秘めたアザゼル

・青池保子『七つの海七つの空』秋田文庫、発表1976年

・青池保子『エル・アルコン―鷹―』秋田文庫、発表1976年

・木原敏江『摩利と新吾』全８巻、白泉社文庫、発表1977〜1984年　⇒ＨＰ《天使学１．木原敏江先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

・樹なつみ『八雲立つ』全１９巻、花とゆめコミックス、白泉社、発表1992〜2002年　⇒ＨＰ《天使学３．『八雲立つ』をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

・中山星香『妖精国の騎士』現在１６巻、秋田文庫、1986年〜連載中　⇒ＨＰ《天使学７．山中星香先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

　

友道の秘儀　――ミトラとアザゼル

・青池保子『七つの海七つの空』秋田文庫、発表1976年

・樹なつみ『花咲ける青少年』全６巻、白泉文庫、発表1987〜1995年

・木原敏江『摩利と新吾』全８巻、白泉社文庫、発表1977〜1984年　⇒ＨＰ《天使学１．木原敏江先生の作品をテキストとしてミトラ神学を学ぶ》

・富樫義博『ＨＵＮＴＥＲ×ＨＵＮＴＥＲ』現在１８巻、ジャンプ・コミックス、集英社、発表1998〜連載中

・竹宮恵子『風と木の詩』全８巻、中公文庫、発表1976〜1984年

　

ミール（弥勒転世）

・竹宮恵子『地球へ･･･』全４巻、サンコミックス、発表1977〜1980年

 

 

 

第二部　神話の概要

 

 

　神話の正式完全版については、『ケウル−ミトラ聖典』の「黒の書」「孔雀の書」「啓示の書」「太陽の書」「七大天使の書」「七大天使の真名の書」「聖七文字の書」「神秘の書」「注釈集」「ダウル記２」「火の鳥の物語」を参照のこと。アザゼル復活の秘密教義の全貌がわかる。

 

 

１．太初

　すべての始まりに先立って、至高神ミトラがいた。根源なるものにして、平和を愛する主なる天の友ミトラは、唯一神である。天の友ミトラは、生ける永遠時間の神であり、天真そのものであり、始まりも終わりもない。ミトラは、自分のもっともたいせつな本質である友愛から白い真珠をつくりだした。つぎに、一羽の鳥をつくりだして、それをアンファル＊と名づけ、アンファルの背中に真珠をのせた。四千年がすぎさったとき、ミトラは天地創造を始めた。

　

＊ミトラ　Mitra/Mithra。イェズダンミールYezdanmihr。ミフルヤズドMihryazd。ミールMir、ミフルMihr、メヘルMeher、ミトラスMithrasなど、さまざまなヴァリエーションがある。中国語では、弥勒、弥勒古仏。古仏は、中国語で至高神・根元神を意味する。ミトラの名は、友、愛、約束、友道、太陽を意味する。

＊アンファル　Anfar。神秘的な不死鳥。孔雀のような姿をしている。

　

　

２．七曜天使の創造

　ミトラは、最初の日である日曜日に、まずアザゼル＊を創造した。アザゼルは、孔雀王＊と呼ばれ、すべての天使の長である。月曜日、ミトラは、天使ダルダーイルを創造した。火曜日、ミトラは、天使イスラーフィールを創造した。水曜日、ミトラは、天使シェムナーイルを創造した。木曜日、ミトラは、天使アズラーイルを創造した。金曜日、ミトラは、天使ジブリール＊を創造した。土曜日、ミトラは、天使ミカエルを創造した。七名すべてを創造し終わると、ミトラは、孔雀王アザゼルを七曜天使＊の長にした。

　

　

＊アザゼル　'Azazel。七大天使の筆頭に位置する天使。古代名は、アリヤマンAryaman、アーリマンAhriman。ルシファー、サタナエル、イブリースとも呼ばれるが、悪の総大将ではなく、ミトラの第一の友であり、全天使の頂点に位置している。ルシファーやサタナエルの伝承にもあるように、アザゼルは、全天使の中で最も美しい。

＊孔雀王　Melek Tawus。アザゼルをつつむオーラには、万の目があり、それが孔雀の尾羽のように見えることに由来する。原語アラビア語・クルド語の正確な訳は、孔雀王である（原語でメレクは王、タウスは孔雀）。一時、英語文献に、孔雀の天使the peacock angelと記されていたが、現在は正確な知識が普及し、メレク・タウスと原語のまま記すように変っている。

＊ダルダーイル　Darda'il。よき教師と称せられる大天使。

＊イスラーフィール　Israfil。先導者と称せられる大天使。七曜天使の先鋒を務める。

＊シェムナーイル　Shemna'il。神の懐刀とされる大天使。アザゼルの影となって働く。

＊アズラーイル　'Azra'il。魂の深みを知る大天使。

＊ジブリール　Jibril。ガブリエルのこと。古代名は、スラオシャ。明教の時代に、ジブリールとスラオシャの習合は、すでに成立している。

＊ミカエル　Mikal。神の盾と称せられる大天使。西洋名はミカエル。

＊七曜天使　しちようてんし。〔ア〕ハフト・シッルHaft Sirr。〔ク〕ハフト・ラーズHaft Râz。アザゼル、ジブリール、シェムナーイル、ダルダーイル、ミカエル、アズラーイル、イスラーフィールのこと。ヘレニズム時代のミトラ神話には七曜神として、明教神話には七大天使として登場する。人間は、誕生日の曜日（七曜）により、守護天使が決まる。

　

　

３．天地創造

　そのあと、ミトラは、七つの天、大地、太陽、月、その他もろもろをつくった。つぎに、ミトラは、人間、家畜、鳥、獣をつくって、それらを自分のマントでつつんで、七大天使たちをひきつれて、真珠からたちあがった。ミトラは、大きな声で真珠に呼びかけた。すると、真珠は四つ＊に割れて、その中から水が流れでて、海になった。世界は丸く、どこにも裂け目がなかった。

　ミトラは、天使ジブリールを一羽の鳥に変えて、四つに割れた真珠の隅（火地風水の四元素）の統治権をあずけた。そのあと、ミトラは、船をつくり、それに乗りこんで、三千年のあいだ航海をつづけ、ラリシュの地にたどりつき、そこに住みついた。ミトラが世界に向かって叫ぶと、海はかたまり、大地となって震えた。ミトラは、天使ジブリールに命じて、真珠の二つのかけらをもってこさせ、一つを大地の下に敷き、もう一つを天の門にたてかけ、そこに太陽と月をおいた。そして、太陽と月のかけらから、たくさんの星をつくって、それらを天につるして、天空をかざりつけた。それから、ミトラは、果実がなる樹木と草花をつくりだし、大地と山々にしげらせ、大地をかざった。ミトラは、自分の玉座をつくりだして、それを絨毯の上に置いた。それから、偉大な主ミトラはいった、「おお、天使たちよ、わたしは、これから、アダムとイヴをつくりだし、彼らから人類をつくりだす。彼らから二人が現れる。アダムの腰から、セト＊が生まれ、彼から、孔雀王アザゼルの民、すなわち、ヤザタ派の民が生まれるだろう。彼らのために、将来、大アッダイ＊をシリアの地からラリシュの地につかわそう。」

　

＊四つ　火地風水の四元素のこと。

＊セト　Seth。シェフル・イブン・ジャビルShefr ibn Jabirとも言う。ミトラ教・イスラームにおいて、世界最初の使徒とされている。

＊大アッダイ　大マニの直弟子の一人。クルドの地に伝教した。イスラーム化した今日では、シャイフ・アディーSheykh Adî ibn Musâfirと呼ばれている。

　

　

４．アダムとイヴの創造、アザゼルの堕天

　このようにいい終わると、ミトラは、天使ジブリールに命じて、世界の四隅から火地風水の四元素をとってこさせ、それをこねて人間をつくり、そこに、自らの奇跡のわざで、魂を吹きこんだ。それから、ミトラはジブリールに命じて、アダム＊を楽園のなかに運ばせ、アダムがさまざまな緑のハーブの果実を食べられるようにした。

　ミトラは、アダムに万物の真名を教え、楽園の聖王にした。しかし、七大天使の筆頭に位置する大天使アザゼルだけは、神ミトラへの絶対的な忠心から原人オフルミズドを聖王と認めなかった。そこで、ミトラは、アザゼルを追放した。この時、ミトラは、自分に従わない人間を自由にする権利をアザゼルに与えた。自分の思いが伝わらなかった悔しさを胸に秘め、アザゼルは闇の中に立ち去った。

　

＊アダム　Adam。泥でできた天使。アダムは、ミトラ教神話におけるディオニューソス、明教神話における原人オフルミズドが重ねられている。アダムの堕天は、ディオニューソス（オフルミズド）の死に相当する。

　

 

５．アザゼルの復活

　アザゼルは、闇の王と名乗って、長い間、神ミトラと争った。しかし、冥府における決闘の末、双方は互いの真意を知り、和解した。神は、アザゼルを第一の天使にもどし、原初の約束どおり、孔雀時代（孔雀の周期）が始まったとき、アザゼルにその時代の統治を任せることとし、その準備をさせた。

　やがて、約束のときが来た。アザエルは、シャープール一世と二世＊の治世下（三〜四世紀）において、大アッダイに啓示を与え、クルドの地に孔雀派を創設させ、復活の準備をさせた。

　

＊シャープール一世と二世　Shapur I, 241-273。Shapur II, 309-379。ササン朝ペルシアの皇帝。東方ミトラ教を厚く庇護したので、現在ミトラ教の聖王の中に列せられている。

　

 

６．アッダイの召命

　大アッダイ（アディー）は十五歳のとき、一つの呼び声に導かれて旅に出た。五年の月日が過ぎ去った。月明かりを浴びて平原を馬で旅しているときに、再び呼び声を聞いた。アッダイがある墓のまえにたどりついたとき、そこに真っ黒な牡牛のような影が現れた。墓に見えたものはぐんぐん大きくなり、高いミナレット（尖塔）になって、その先端は雲にとどいた。アッダイが驚いて見上げていると、黒い牡牛の様な影は、孔雀の羽のような光につつまれた美少年の姿に変わった。孔雀王アザゼルであった。アザゼルは言った。「恐れることはない。このミナレットはやがて崩壊し、世界を破壊し、仕切り直しをする。そのとき、おまえとおまえの言葉を信じる者は、新しい世界を統治するだろう。わたしは孔雀王、至高神ミトラと一心同体なる者。わたしは、おまえを選び、ここに導いたのだ」。こういうと、アザゼルはアッダイに啓示を授けた。アッダイは、アザゼルの言葉を書きとめて、正典『啓示の書』（ケターベ・ジルワ）にまとめた。アッダイは、クルドの地に向かい、そこでアザゼルの教えを広げ、孔雀派を創設した。

　

 

７．孔雀時代の始まり

　西暦６６１年（七世紀）、ついに孔雀時代＊が始まった。この年、孔雀時代の始まりを告げる合図として、この世では、神の化身アリーからアザゼルの使徒ムアウィヤ一世＊にイマーム位が譲られた。これを受けて、ムアウィヤ一世は、ダマスクスを首都としてウマイヤ朝＊を開いた。こうして、環境を整えた後、アザゼルは、ムアウィヤ一世の子イェジド一世＊としてこの世に転生し、われら孔雀派のために、ミール＊の血統をつくりだした。

　アザゼルは、自分の言葉をダルダーイルに託し、バスラのハサンのもとに遣わし、ハサンに『黒の書』としてまとめさせた。さらに、アザゼルは、ハッラージュに命じて、孔雀時代の教えを広めさせた。これらを中心に、古い教会＊のもろもろの文書、知恵、黙示録、寓話、詩編、聖像、聖画がいたるところから集まり、アザゼルが啓示した知恵と新たなかたちで結ばれた。無数の小さな川が次々と合流し、ついにはとうとうたる大河となるごとく、古いもろもろの文書はアザゼルの聖書に付加されて、これまでの時の流れにはまったくなかったような一つの大きな知恵となった。この大きな知恵は、『薔薇園の秘密』『真理の中庭』『鳥たちの集い』『鳥たちの物語』『友愛の本性』『太陽の書』『影たちの書』『七の書』『礎の書』『精神の叙事詩』『九蓮宝巻』『龍華経』『太乙金華宗旨』といった新しい教典を生み出しつつ、今も成長を続けている。

　

＊孔雀時代　１ヨベル＝４９年を単位とし、４９ヨベル＝２４０１年間続く。西暦に直すと、６６１年から３０６１年までに相当する。孔雀時代は、次のように七曜期に細分されており、現在は、孔雀時代の半ばである水曜期の終わり（孔雀時代後半の始まり）に位置している。孔雀時代の前半に蒔いた種が実を結び、具体的なかたちをとる時代である。

　・日曜期　６６１〜１００３年

　・月曜期　１００４〜１３４６年

　・火曜期　１３４７〜１６８９年

　・水曜期　１６９０〜２０３２年

　・木曜期　２０３３〜２３７６年

　・金曜期　２３７６〜２７１８年

　・土曜期　２７１９〜３０６１年

＊ムアウィヤ一世　Mu'awiya I, ?-680。ウマイヤ朝の初代カリフ（エミール）。

＊ウマイヤ朝　Umayya, 661-750。世界初の本格的アラブ・イスラーム王朝。この王朝下で、東方ミトラ教（ミフリーヤ）は、唯一の正式なミトラ教会として公式に認定された⇒ＨＰ《ミトラ神学３．東方ミトラ教入門》。ウマイヤ朝の子孫は、後にスペインのコルドバを首都にして後ウマイヤ朝756-1031を興している。

＊イェジド一世　Yezid I, 680-683。ムアウィヤ一世の子。アザゼルの生まれ変わりとされている。

＊ミール　Mir。エミールEmir、イマームImâmとも言う。ミトラの生まれ変わりを意味するが、通常は、教団の長、人徳を慕われる高名な神秘詩人をさす。

＊古い教会　ミトラ単一神教、ズルワーン教、西方ミトラ教、東方ミトラ教・弥勒教、マズダク教など、孔雀派以前に成立したミトラ教系の諸宗派のこと。

　

 

８．王朝史

　ヤズダン教徒は、ウマイヤ朝以後も政治面でも活発な運動を展開した。ブワイフ朝＊、シャッダード朝＊、アイユーブ朝＊、独立公国＊、ゼンド朝＊といった王朝を興し、イスラームと連携しつつ、現在に到っている（メフルダード『クルド便覧』第三章歴史による）。

　

＊ブワイフ朝　the Buwayhid, 932-1062。クルド人アリが興した王朝。首都はバグダッド。この王朝下で、純正同胞団が組織された。

＊シャッダード朝　the Shaddadid, 951-1174。クルド人シャッダードがカスピ海西岸に興した王朝。

＊アイユーブ朝　the Ayyubid, 1169-1250。クルド人サラーフ・ッディーン（西欧名サラディン）がエジプトに興した王朝。首都はカイロ。

＊独立公国　１６〜１８世紀にかけて、クルドの地は、オスマン＝トルコ帝国とサファヴィー朝イランの間の緩衝地帯になったので、ここには、バラーズBaraz、バヤジッドBayazid、チャミシュケゼクChamishkezek、ビトリスBitlis、ミラーンMilan、バディナーンBahdinan、アルダラーンArdalanといったクルド系の独立公国が生まれた。

＊ゼンド朝　the Zandid, 1775-1794。クルド人カリム汗が興した王朝。首都はシラーズ。

　

 

９．一年の計を立てる

　毎年、春になると、人々は新年祭セレーサル＊を催す。ミトラは、祭りの場に現れる（少年に憑依する）。アザゼルの憑依したマギが、七曜天使を代表して、ミトラに近づき、去年一年の地上統治の状況について報告し、来年の方針について相談する。この後、ミトラと七曜天使は、人々と楽しいひと時を過ごす。

　

＊新年祭セレーアサル　〔ク／ペ〕Serêsal。ミトラ教の新年は、春分の日（太陽が牡羊座０度に入った日）から始まる。セレウコス朝シリアの時代に、新年祭は、四月の第一水曜日から十二日間と定められた。⇒ＨＰ《ミトラ教の祭日と年中行事》

　

 

１０．友情の儀式

　毎年、秋になると、人々はミトラカーナ大祭を催す。大祭五日目に、アザゼルはマギにとり憑き、ヤザタ神族と人間の両方を代表して、聖牛の供儀を執り行う。この聖なる儀式により、ミトラとヤザタ神群と人間は、互いの友情を新たなものにする。

　

 

１１．ミトラ聖誕祭（ミトラマス）

　毎年、１２月２１日（冬至）になると、人々はミトラ聖誕祭を祝う。人々は、自宅でパンを焼き、ワインをそなえる。ミトラ教会に行き、ロウソクに火をともしてもらい、それを持ち帰って、門、庭、室内に飾る。

　

 

１２．アザゼルの啓示

　わたしアザゼルは、わたしを信頼し、こまったときには、わたしを呼びもとめる者たちのところに必ず現れる。わたしは、人々が悪と名づけていることすべてに関心がある。なぜなら、それは、思想・慣習・信仰上の都合により悪とされたにすぎないからだ。

　

　わたしは、わが友が、それぞれ本来の性質にしたがっているかぎり、寛大である。わたしに敵対する者は、後悔し、悲しみに沈む。わたしは、あらゆるものごとを見張り、わが周期のなかで有益なものを後押しする。わたしは、わたしの友となって歩むことで、大きな喜びを感じる者たちを教え導く。

　

　わたしは、わが友であると認めた者たちに、自主的に判断する権利を与えている。なぜなら、そのような者たちは、わたしの意志にかなっていて、あらゆる面で、わたしの友としてふさわしい考え方と行動をし、わたしの信頼に応えてくれるからだ。

　

　わたしは、神の友をおどしたり、わたしに敵対しようとする者に、苦痛と悲しみを与える。わたしは、わが友を、けっして死なせはしない。わたしは、わが友たちが、わたしが定めた周期を超えて、いつまでもこの下層の世界にとどまっていることを望まないし、そのことに胸がいたむ。わたしは、場合によっては、魂を二度三度とこの世にひきもどし、この暗い下層の世界ですごさせねばならないが、それは宇宙の定めであって、わたしの本意ではない。

　

　わたしは、わたしのために苦しんだ者すべてに必ず埋め合わせをする。わたしは、わが友たちが、敵対する者たちに対抗するために、一つにまとまることを願っている。

　

　友よ、わたしの聖像・聖画と、わたしのシンボル（孔雀の紋章）をあがめよ。なぜなら、これらは、あなたに、わたしの言葉と、わたしが定めたことで、あなたが忘れていることを思い出させ、比類なき力を与えてくれるからだ。

　

　

　

以　　　上