ズルワーン教の神話

――ミトラ教の占星術神話――

　

　

　

目次

目次

ねらい

より正確に理解するには

参考

 

第一部    解説

　１．ズルワーン教の定義

　２．名称

　３．別名

　４．成立年代

　５．使徒

　６．祭司団

　７．概要

　８．主祭神

　９．経典

 

第二部    神話の概要

　１．双子の誕生

　２．原初の創造

　３．三柱の審判者

　４．アフラ=マズダーの敗北

　５．人間の誕生

　６．ミトラの世界統治と死後の裁き

　７．五惑星、太陽と月

　８．最終戦争

 

 

ねらい

　ミトラ神話を総合的かつ正確に理解すること。

　

　

より正確に理解するには

　ズルワーン教の神話を伝える経典の正式版・完全版は、『ケウル−ミトラ聖典』の中に「ダウル記２」として収録されている。

　

　

参考

根本聖典

・東條真人『ケウル−ミトラ聖典』MIIBOAT Books、2006

 

辞書

・ＰＤＦ．『ペルシア神話大辞典』

 

ミトレーアム公式ＨＰ

・ＨＰ《ミトラ神話１．ミタンニ･メディア時代のミトラ神話》

・ＨＰ《神話学１．ミトラ教の基本》

　

ズルワーン教

・ＰＤＦ．正典『真二宗経』ミトラ教天使七星教会

・ＰＤＦ．正典『ズルワーン派による創造の書』ミトラ教天使七星教会

 

 

 

第二部　解説

――ズルワーン教の概要――

 

 

１．ズルワーン教の定義

　バビロニアの祭司とメディアのマギの混血により生まれたカルデアン・マギが創始した宗教。

 

 

２．名称

　正式名称は、アラビア語でズルワニーヤZurwaniyya。英語では、ズルワーン教Zurwanism。

 

 

３．別名

　なし。

 

 

４．成立年代

　前５世紀。

 

 

５．使徒

　ザラタス。

 

６．司祭団

　カルデアン･マギ。バビロニアの祭司とメディアのマギ（ミトラ派）および、彼らの混血により生まれたバイリンガルのマギからなる混成マギ団である。

 

 

７．概要

　ズルワーン教は、アケメネス朝時代中期に台頭したカルデアン･マギが、バビロニアの占星術と宇宙論をもとにして築いた宗教である。ズルワーン教は、マズダー教の神話・教義をとりこんで、ミトラ神話を再構築して、マギの宗教を復活させた。教義上の重要なポイントは、次の五つである。�@アフラ=マズダーとアンラ・マンユを超える神ズルワーンが存在する。ズルワーンこそが真の至高神（万物の根源としての一者）である。�A天上王権は、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラという順序で移譲される（天上王権継承神話）。�Bミトラは、アフラ=マズダーとアンラ･マンユの戦いを終わらせる。�C現在は、ミトラが世界統治を引き受けている。�Dミトラは、七曜神およびヤザタ神族を指揮している。ズルワーン教が敷いた路線は、その後順調に発展し、西方ミトラ教（ミトラス教）（前二世紀）と東方ミトラ教（マニ教）（三世紀）という二つの世界宗教を生んだ。その上、ズルワーン教自身は、ササン朝ペルシアの国教になった（三世紀）。ササン朝内部の宗派抗争は激しいものであったので、ズルワーン教は、ササン朝の政治体制を維持するための政治的意図の強い宗教（官製宗教）であった。このため、イスラームの攻撃を受けて、ササン朝が滅びると、ズルワーン教も滅びた。

 

影響力

　ズルワーン教の影響力がいかに大きかったかは、アケメネス朝の暦制定の中心的役割を担ったこと、教典『アヴェスター』の編纂に携わり、随所にズルワーン教の見解を反映させたこと、二つの世界宗教（西方ミトラ教と東方ミトラ教）を生み出したこと、さらには、ササン朝の国教になったことなどに見ることができる。

 

思想

　ズルワーン教の神話には、アリヤマン（アンラ・マンユ）を天上王権継承系譜の中に位置付けようとする試みが見られる。

 

（１）１万２千年という世界周期において、アンラ・マンユが最初の９千年を統治し、アフラ=マズダーは残る３千年を統治する。統治期間の順序・長さには、アリヤマン重視の思想が反映されている。

 

（２）ズルワーン（＝ミトラ）は、アンラ･マンユが悪神であるから戦うのではなく、アンラ･マンユが統治の交代に関する約束を破ったので約束を守らせようとして戦っている。これは、�@ズルワーン教神話のキーワードが「約束」と「周期」であり、マズダー教的な善悪二元論でないこと、�Aズルワーンのミトラ化、ズルワーンとミトラの一体化を意味している。

 

（３）初期ズルワーン神話における天上王権の継承順序は、ズルワーン→アンラ･マンユ→アフラ=マズダー→ミトラであった（後述の神話参照）。しかし、時代が下ると、アンラ・マンユがはずされ、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラに変えられた。これはある意味で、ゾロアスター教との妥協であるが、この妥協により、ズルワーン→アフラ=マズダー→ミトラという天上王権継承がゾロアスター教にも支持されるようになったことの意義は大きい。

 

占星術の根本神話

　占星術は、バビロニアで発達したが、バビロニアの宗教は、体系的な占星術神話を発達させる前にアケメネス朝ペルシアに征服された。そのため、バビロニア神話をいくらひもといても、占星術神話は見つからない。本格的な占星術神話が誕生したのは、アケメネス朝治下であり、それはカルデアン･マギの手によってなされ、ズルワーン教の神話というかたちをとった。ズルワーン教の神話は、西方ミトラ教、東方ミトラ教、ヤズダン教という順序で継承され、最終的に神聖数七にもとづく教義体系に発展した。

 

備考

　ズルワーン神学からイスラーム初期のムータジラ合理神学が生まれ、ムータジラ合理神学からシーア派神学が生まれ、今日に到っている。ムータジラ神学は、マズダー教的二元論をタウヒード（神の唯一性、すなわち絶対一元論）に対する重大な挑戦とみなし、一切容赦せず、徹底的に糾弾した。

 

 

８．主祭神

　ズルワーンの四位格、すなわち、名＝ズルワーン、光＝ミトラ、力＝ウルスラグナ（バフラーム）、智慧＝女神デーネ。マズダー教が力を得ている時期には、名＝アフラ=マズダーになったこともある。

 

 

９．経典

�@ズルワーン教の経典

　・ズルワーン教による創造の書　Zurwanite Bundahishn　……創世神話　⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン教による創造の書』

　・智慧の霊の教え　Dînâ-e Maînôg-e Khirad　……占星術的教義

　・疑念を払う説教　Shikand-gûmânîg Vizar　……占星術的教義

　・宗教的見解　Dâdistân-e Dînîk　……死後の審判、現世と来世の分担統治

　・パフラヴィー文書　Pahlavi Rivâyat　……七重のズルワーン

　・ミトラ祭儀書　Mihr Yasht　……アフラ=マズダーからミトラへの天上王権移譲、ミトラの世界統治

 

�Aギリシア語マギ資料

　・プルタルコス『イシスとオシリスについて』　Περι Ισιδος Και Οσιριδος, 46-47(369D-370C)

　・『ヒュスタスペスの神託＊』　the Oracles of Hystaspes

 

�Bアラビア語・ペルシア語資料

　・イスラームの宗教法学者　Ulama-e Islam　……創世神話

・ムハンマドの使徒性証明の確立　Tathbît dalâ’il al-nubuwwa Sayydina Muhammad　……創世神話

・宗教と宗派　Al-Milal wa-l-nihal　……創世神話

 

�Cアルメニア語資料

　・アルメニア人エズニクの記録　Eznik Text……双子誕生の神話、統治期間の取り決め

　

＊ヒュスタスペスの神託　これによれば、宇宙の全歴史は七千年である。最初の六千年はアフラ=マズダーとアンラ･マンユの戦いの時代で、アンラ・マンユが優勢である。しかし、最後の千年期になると、ミトラが現れ、世界を支配し、正義と秩序を回復させる⇒エリアーデ『世界宗教史�U』27:212, p326；ボイス『ゾロアスター教史�V』p376-381。

 

 

 

第一部　神話の概要

 

 

　正式完全版は『ケウル−ミトラ聖典』の「ダウル記２」を参照のこと。

 

 

１．双子の誕生

　永遠時間の神ズルワーン＊以外のものすべては、ズルワーンがつくりだした。ズルワーンは、主にして、創造神であり、無限で上も下もない。常に存在し、これからも存在し続ける。

・・・・・・

　永遠なるズルワーンは、最初に火と水をつくりだした。ズルワーンが火と水を混ぜ合わせると、アフラ=マズダー＊が生まれた。アフラ=マズダーは、明るく、きよらかで、かぐわしい芳香を放っていた。アフラ=マズダーが下を見ると、そこにアンラ・マンユ＊（アーリマン）がいた。アンラ・マンユは、暗く、汚れ、悪臭を放っていた。アンラ･マンユは、ズルワーンの前に歩み出ると、「わたしが、あなたの長子です」と言った。ズルワーンは、最初に生まれ出た者に天上王権＊を渡すという約束（請願）を守り、一万二千年という世界周期（アイオーン）を定めた上で、最初の九千年をアンラ・マンユの支配期間、最後の三千年をアフラ=マズダーの支配期間とした。⇒『イスラームの宗教法学者』8-10

・・・・・・

　光と闇という対立する領域の中間には、ワユ（虚空）という中間領域が広がっている。光の領域の支配者はアフラ=マズダー、闇の領域の支配者はアンラ・マンユである。この二つの霊は、中間領域の中で混じり合う。

・・・・・・

　中間領域の支配者はミトラである。ミトラは、ズルワーンの化身であり、ズルワーンと同じ姿・能力・権能を持ち、長期に渡る時の支配者＊として、支配期間についての取り決めを見張っている。

　

＊ズルワーン　Zurwân。〔中〕無上光明王。最高神にして、万物の根元である一者（いわゆる第一原因）。無限光妙の世界（光の楽園）の主（最高神）。双子が誕生する以前の光の楽園は、永遠なる平和の時代であった。ズルワーンが統治する光の楽園は、清らかで、美しく、静謐で、輝いていた。喜びに満たされ、平和で、希望と活力と芳しき芳香にあふれていた。

＊アフラ=マズダー　Ahura Mazdah。オフルミズドとも言う。アフラ=マズダーという名前は、「叡智の霊」を意味する。光の中に住む善神。全知だが、全能ではない。アフラ=マズダーは、常にアムシャスプンタに囲まれている。

＊アンラ・マンユ　Angra Mainyu。アンラ・マンユという名前は、怒りの霊を意味する。闇の中に住む悪神。暗愚、醜悪、無慈悲、嫉妬深く、強欲。六大魔を従えている。マズダー教によれば、アンラ･マンユ（怒りの霊）は、アリヤマン（アーリマン）をさしている。ズルワーン教は、アンラ・マンユがアーリマンであるというマズダー教の解釈を否定していない。

＊天上王権　てんじょうおうけん。〔ア〕ルブービーヤrubûbiyya。〔ク／ペ〕フワダヤーxwadayâ。これについては、ズルワーン教の概要の〔思想〕�Bを参照のこと。

＊時の支配者　〔ク／ペ〕カーイム・ッザマーンQâ'im az-Zamân。

　

　

２．原初の創造

　アンラ・マンユは自分の支配期間を長くしようと画策し、アフラ=マズダーを亡きものにしようとした。アンラ・マンユの攻撃を受けたアフラ=マズダーは、勝利を得るには一定の時間と生命活動が必要だということを知り、中間領域を戦いの場所に選んだ⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン教による創造の書』1:31。そして、ズルワーンの許可を得て、アフラ=マズダーは原初の創造を行った⇒『叡智の霊の見解』8:7。アフラ=マズダーは、原像世界の創造をはじめる前は、主ではなかったが、これにより、はじめて主、すなわち富ますことに熱心で、賢明で、敵がなく、永遠に秩序正しく、寛大で、全知なる者となった⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン派による創造の書』1:18。

　アフラ=マズダーは中間領域のなかにコスモスをつくり、まずアムシャスプンタ＊を召喚した。しかし、アムシャスプンタは、静止したまま動かなかった。アフラ=マズダーは、いのちを与える能力に欠けていたからである。そこで、アフラ=マズダーは、ミトラからワユ（生気）を分けてもらい、それをアムシャスプンタに吹き込んだ。アフラ=マズダーは、アムシャスプンタが生命をもったことを確かめると、自分自身とアムシャスプンタを実体化させ、天空、水、大地、植物、火、聖牛、原人をつくりだした。アフラ=マズダー自身は、七番目に実体化し、ミトラを原像（理想像）として、原人になった⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン派による創造の書』1:30; 3:11, 19 。こうしてつくりだされたものは、まさに理想状態＊にあった。聖牛は月のように白く輝き、原人は態様のように輝いていた。

　

＊アムシャスプンタ　Ameshaspenta。この名は、聖なる不死者・富ます者を意味する。アフラ=マズダー直近の神団で、それぞれアフラ=マズダーの性質の一面（あるいはアフラ=マズダーの身体を形成する元素）として、元素と被造物の保護を受け持っている。この神団を構成七神については、ゾロアスター教の神話を参照のこと。⇒ＨＰ《ミトラ神話２．ゾロアスター教の神話》「神話」の「２．第一の三千年期」の注参照。

＊理想状態　この理想状態（アフラ=マズダーが支配する時代）を「原初の時」（ブンダヒシュン）、この後に続く戦いの時代を「混合の時」（グメージシュン）、ミトラによる救済の時代を「分離の時」（ウィザーリシュン）と呼ぶ。

　

　

３．三柱の審判者

　それから、アフラ=マズダーは、ミトラのために住居をつくり、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ＊、ラシュヌ＊を召喚した。その後、世界のために必要なので、ヤザタ神族＊を召喚した。⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン派による創造の書』1:30；『ミトラ祭儀書』12.50

　

＊スラオシャ　Sraosha。ミトラの従神。聖なる言葉の化身。信徒を教え導く。戦闘用の斧を持つ勇敢な戦士として、大怒魔アエーシェマに立ち向かう。後にジブリールと習合した。

＊ラシュヌ　Rashnu。ミトラの従神。裁きの神。魂に試練を課して試し、善悪の応報を与える。死後の小審判において魂の善悪を量る。ミトラの代理人として、冥府を管理する。アリヤマンの一面が分離してラシュヌになった。

＊ヤザタ神族　ミトラ単一神教の「神話」を参照のこと。⇒ＨＰ《ミトラ神話１．ミトラ単一神教の神話》

　

　

４．アフラ=マズダーの敗北

　アンラ･マンユは、全悪魔を率いて世界を攻撃した。悪魔の軍団＊は、天空殻を突き破り、大洋を通り抜けて、大地の中央に侵入し、手当たり次第に攻撃・破壊した。大地は、真っ暗になり、真昼なのに真夜中のようになった。魔物が徘徊し、邪気が広まった。アンラ・マンユの軍団の攻撃は、成功し、世界は荒廃した。まず水を塩水に変え、次に大地を砂漠に変えた。ついで、百種樹を枯らし、聖牛と原人を殺した。最後に、仕上げとして、火を煙で汚した。惑星たちは、無数の悪魔たちとともに天球層に攻撃をしかけた。彼らは星座を混乱させた。あたかも火があらゆる場所を歪ませ、そこから煙がたち昇るように、全被造物が歪んだ。こうして、アフラ=マズダーの被造物は戦いに敗れたかのように見えた。

　しかし、アンラ･マンユが軍団を率いて故郷に帰ろうとすると、鎧兜で身を固めたフラワシ＊たちが天空の道をふさいでいた。九〇昼夜におよぶ激戦の末、フラワシたちは、アンラ・マンユの軍団を地獄に投げ落とした。天上には累壁が築かれ、闇の軍団がもはや襲撃して来られないようにした。地獄は大地の中にある。そこに邪悪な霊は大地を貫通して入り込んだ。有象世界のあらゆるものが二元性をもつものへと変わっていった。迫害、争い、高みにあるものと低次元のものとがごちゃまぜになって顕現しはじめた。

　植物の守護女神アムルタートと雨神ティシュトリヤ＊は、ハオマと雨を世界にふりそそぎ、より多くの植物が育つように大地を豊かにした。聖牛の四肢からは、五十五種類の穀物と十二種類の薬草が生まれた。牛の脊髄からあらゆる植物が分かれ出た。聖牛は、月にひきあげられて、そこで徹底的にきよめられた。聖牛の種子は、再び大地に降りると、二八二体の男女の原種になった。鳥は空にあふれ、魚は水にあふれた。千年の間、動物たちは何も飲み食いしなかった。その後、まず水を飲むようになり、次に植物を食べるようになった。その後、三つに分類される動物が作り出された。最初は山羊と羊、次にラクダと豚、それから馬とロバである。

　

＊悪魔の軍団　⇒ＨＰ《ミトラ神話２．ゾロアスター教の神話》の「神話」の「３．第二の三千年期」の注参照。

＊フラワシ　Frawashi。守護霊、あるいは祖霊のこと。

＊ティシュトリヤ　Tishtriya。シリウス星の神。シリウス星は、全恒星を代表する星と考えられている。シリウス星が見え始める頃に雨季が始まるので、雨の神とされている。ティシュトリヤは、十五歳の少年、牡牛、白馬に変身する⇒『ティシュトリヤ祭儀書』6。

　

　

５．人間の誕生

　原人の種子は、太陽に引き上げられ、ミトラのもとで徹底的にきよめられた。原人の種子は、大地に降ろされると、ミトラ月のミトラ日に一本の人間樹＊として生え出た。四〇年間は茎が一本しかない植物のかたちで、十五年間は十五枚の葉をつけたかたちで、マトローとマトローヤオは腕を互いの肩の後ろにまわしたかっこうで地中から生えていた。やがて、両者は、植物の形から人間の形へと変化した。アフラ=マズダー＊は、マトローとマトローヤオにこういった。「おまえたちは人間である。おまえたちは世界の先祖である。おまえたちを、わが娘である大地の女神アールマティーの上に存在させたのは、このわたしである。それゆえ、わが法の命じる義務を献身的に果せ、善行をなせ、いかなる悪魔も崇拝するな！」。

　二人は最初こう考えた、「一方が他方を喜ばせよう」。彼らが最初に行ったことは、自分たちを徹底的に洗うことだった。彼らが最初にしゃべったことは、「天則（天道）のもとにあるすべて、すなわち水、大地、植物、動物、星々、月、太陽、そして繁栄のすべてを創造したのは、アフラ=マズダーである」ということであった。

　ところがその後、彼らの精神の中に対立する考えが殺到し、彼らの精神は徹底的に腐敗し、彼らは、邪悪なる霊が水、大地、植物、動物、そしてその他先に述べたすべてのものを創造したと叫んだ。この虚偽は、アンラ・マンユの意志によるものだった。アンラ・マンユは、彼らから最初の喜びを得た。虚偽を語ったことによって、彼ら二人は、邪道に落ちた。彼らの子孫、すなわち人類は、指針を失い、暴力と悪意がはびこるようになった。

　

＊人間樹　にんげんじゅ。〔中ペ〕リーワスRîvâs。

＊アフラ=マズダー　原人が死んだとき、原人の霊、すなわちアフラ=マズダーの霊的本体は、無事脱出し神霊界にもどることができた。しかし、物質界とのつながりを断ち切られてしまったので、霊力は、著しく弱まっている。

　

 

６．ミトラの世界統治と死後の裁き

　これを見て、アフラ=マズダーは、もはや自分の手におえないと判断し、公正なるミトラに世界の統治権（天上王権）を譲り、自分は来世の統治に専念することにした。アムシャスプンタも、これに賛同した⇒『宗教的見解』14:3-5；『ミトラ祭儀書』13.53; 33.140。こうして、ミトラが世界を統治することになった⇒『叡智の霊の教え』7:5；『ズルワーン派による創造の書』。ミトラは、スラオシャ、ラシュヌ、七曜神、十二星座の女神などからなるヤザタ神族をしたがえて、世界の正義と秩序を見張り、生き物たちすべてを監督し、アンラ・マンユたちの攻撃から彼らを守り、彼らの魂をきよめる仕事に着手した。

　ミトラは、アシャ（正義）を基準として、ドゥルジ（虚偽）にしたがう者を罰し、世界に公平さと正義をつくりだした。ミトラは人間の一生を見守り、アシャを基準として、死後の裁きをおこなうことにした。裁きは、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ、ラシュヌに、アフラ=マズダーとウォフ・マナフが加わって、五柱の合議で行う⇒『宗教的見解』10-11。善いことをした者は、チンワトの橋をわたって、アフラ=マズダーが待つ光の中に迎えられる。悪いことをした者は、橋から転落し、奈落の底に落ちていく。ミトラが、このような徹底した正義の統治を行ったので、この世は秩序と平和を取り戻した。

　しかし、アンラ･マンユは、これを黙ってみていたわけではない。さらに多くのダエーワ魔族をつくりだし、ヤザタ神族に対抗すべく、出撃させた。かくて、この世は、神族と魔族の戦場となった。

・・・・・・

　あるとき、ひとりの聖者が叡智の霊に「ミトラの勝利に貢献するためには、何をすればよいのですか」と尋ねた。すると、叡智の霊は、「一日三回、太陽の方を向いて、ミトラに祈るがよい」と答えた。そこで、人々は、一日三回ミトラに祈るようになった。⇒『智慧の霊の教え』50:1-4

　

　

７．五惑星、太陽と月

　五惑星は邪悪な霊の煙と闇に惑わされ、神々に攻撃をしかけた。そこで五惑星は調伏され、星座・恒星の監督と助力を受けるようになった。彗星はミトラから定期的に光を分けてもらうかわりに、もう悪さをしないと約束した⇒ＰＤＦ．正典『ズルワーン派による大創造の書』3.24-25, 5.1-2。

　これら五つの惑星が勝手なことをしないように、太陽なるミトラと月なる女神マーフは、それぞれが五つの惑星それぞれに二本一組の糸をかけてそのふるまいを制御している。五惑星が逆行するのは、ミトラと女神マーフが糸をたぐりよせるためである。木星と土星の糸は長く、水星と金星の糸は短い。彼らは五惑星が遠くはなれて勝手なふるまいをしようとするとたぐりよせ、五惑星が地上の生き物たちを傷つけないように絶えず監視している⇒『疑念を払う解説＊』4:39-45。

　

＊疑念を払う解説　〔ペ〕シカンド・グーマーニーグ・ウィザルSikand-Gûmânîg Vizâr。

　

表　七惑星を見張る神々

惑星	惑星を見張る神	見張りの星座・恒星
太陽	ミトラ	なし
月	女神マーフ	なし
土星	ケーワン（ズルワーン）	北極星（紫微星）
木星	原人オフルミズド	フォーマルハウト（北落帥門）
火星	バフラーム	北斗七星
金星	女神アナーヒター	アンタレス（サタウィース）
水星	ティール	シリウス（天狼星）

　

　

８．最終戦争

　周期の終わりが来ると、三柱の審判者ミトラ、スラオシャ、ラシュヌが現れる。彼らは、アンラ・マンユに、統治権交代の時が来たことを宣言し、アンラ･マンユがつくりだしたものすべてを破壊し、最後に大暗母アズをも打ち倒す。これにより、アフラ=マズダーのつくりだしたものは、ようやく平穏と安泰を得る⇒『叡智の霊の教え』7:11-16。

　

　

　

以　　　上